knight6:逃さない、愛している

2/12
前へ
/83ページ
次へ
 自分だけの騎士になろうと奔走してくれた夢にまで見た相手。この想いは結ばれなくとも、構わない。このまま秘めた想いを背負って、シリウスの側にいたい。 「それだけが、私の望みだ」  リィルはそっと目を閉じた。  翌朝、用事で王都にきていたリィルはいつも通りに騎士の制服を身に纏ったシリウスを見て微笑む。その視線に気づいたシリウスもその顔を見てフッと笑う。いつもと同じ光景だ。このまま緩やかにシリウスの想いが消えるように、リィルは今日も願った。 ***  シリウスは騎士としてとても優秀だ。何よりも騎士の誇りを重んじて、忠誠を誓った主人の命令に忠実だった。  そんな彼が初めて、騎士という立場が煩わしいと思った。それほど、リィルの存在はシリウスの中で大きかった。  リィルと初めて会った時、まだ彼女のことを男性だと誤解して、同性なら面倒なことも起きないだろうと軽率に彼女の騎士になろうと名乗り出た。  シリウスはとても顔がよく、女性からのアプローチは後を絶たない。だからむやみやたらに女性には声をかけないようにしていて、それがまさかリィルが女性で、それを知った時の衝撃の大きさを未だに忘れられないでいた。  思い出の中のリィルとのやりとりは、とても女性には見えない態度の数々。ぶっきらぼうな彼女がふとみせる甘い笑顔や真っ赤に照れた顔に心が揺さぶられた。男に対して何をと思ったが、惹かれてしまいそうになる心は止められず。リィルが女性だと知った時の喜びは計り知れない。  本当はリィルも自分のことが好きなくせに頑なに認めず、意地を張る姿に何としてでも堕としてみせようと思っていた。  この手に彼女を繋ぎ止めたいと何度もシリウスは願った。  たとて触れられなくても、想い続ければいつか……そう、思っていたのに。  あの日、シリウスは騎士としてリィルを“また”守れなかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加