knight6:逃さない、愛している

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 魔獣を退治し、急いで戻るもリィルの姿はない。目撃情報から荷車を追いかけて、追いついたその先で見たのは、血を流す彼女。  どうして、自分は騎士としての務めも果たせないのか。どうして、愛しい人を傷つけてしまうのか。この手の中に捕えれば、ずっと守り続けられるのだろうか。誰にも触れさせず、奪われないように……気づけば、リィルへの淡い恋心が狂気的な愛に変わっていた。  それを見透かされていたのだろう。リィルからの命令にシリウスは心が張り裂けそうだった。けれど、騎士としてのプライドが、否定することを許さなかった。  それからは、騎士としてリィルのそばにいようと心がけた。彼女が王都にきた時だけの、僅かな関係。その間、心に蓋をして仮初の笑みを貼り付けて、忠実に命令に従う。  騎士としてのシリウスは見事なまでに、それを守り抜いた。  しかし一人の男としては我慢ならなかった。  こんなにも好きなのに、この想いすら許されないのかと、いっそ忘れられたらと何度思ったか。  騎士としてのプライドが、シリウスの行動に枷をかける。リィルの望む騎士の姿であろうと、それが彼女を守ることに繋がるのだと。  そう、思っていたのに……。  ふと、遠目にみたリィルと目が合う。甘く可愛らしく微笑む彼女に、シリウスの心がズキンと痛む。 「ーーっ」  その笑顔は、今は自分に向けられていても、いずれ他の男に向けられてしまう。それが堪らなく嫌で、リィルが自分以外の男に笑いかけてる未来を想像して怒りを覚える。  そして、気づいてしまった。自分はこんなにも彼女のことが好きなのだ……と。どれだけ我慢しようが、蓋をしようが、決して消えはしないのだということを。 「私は、君なしでどう生きていけばいい?」  そう呟く声は誰にも届かない。
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