2人が本棚に入れています
本棚に追加
道は一つじゃない事は知っている。
でも知らない道を進むのは迷いそうで怖い。
慣れた道が一番良い。安心安全が一番だ。
「あ、工事今日からだったのか」
いつもの決まった通学路を歩いていたが、通行止めの看板に行き当たった。
学校から迂回路の知らせが来ていたが、あまりよく見ていない。
時間に余裕はあるのだが、迂回するとどれ位の時間を取られるか分からない。
ここから迂回しても最短で行ける道は……。
頭の中で地図を広げる。
「あ、通行止め今日からか!」
大きな声に驚いて振り向くと、地毛と言うが俺は信じていない明るい茶色の髪に同じ色の愛嬌のある瞳、やや太めのキリッと釣り上がった眉に通った鼻筋、身長も178cmと長身で妬ましくなる容姿を持つ男が立っていた。
ゲッ!あまり関わりたくないクラスメイトと一緒になってしまった。
俺に気付かず行ってくれと心の中で祈るほどだった。
「中西じゃん!中西も俺と仲間か!ラッキー!一緒に行こうぜ!」
この軽いノリが嫌なんだ。
見た目も……。
「ネクタイちゃんとしろ。靴の後ろを踏むな」
「わー、朝から色々見てくれてる。やったぜ」
「いや、見てない。目に付くだけだ。直せ」
これが俺と大石の毎朝のやり取りだ。
ネクタイは持っていて、いつもポケットに入れているのを知っている。
「はい、どーぞ」
ニコニコしながらネクタイを渡してくる。
「昨日が最後って言ったぞ、自分でやれ」
「ネクタイのやり方忘れたんだよな〜。やってくれないならいいや。遅刻するから行こうぜ」
靴だけ履き直して歩いて行こうとする。
俺はため息をついて靴は直したからヨシにするかと
「貸せ。今月中にネクタイ覚えろよ。来月からはやらないからな!!」
とネクタイを奪い結んでやる。
「よし、で、迂回路はどの道だ?」
「あの道行こうぜ」
「あんな細い道を迂回路にはしないだろ?」
「でもあの道が絶対最短だ」
何を根拠に最短と言うのか分からないが、大石は細い道に行ってしまう。
学校指定の通学路以外で事故でも遭ったらどうするんだと思いながらも、1人放っておくわけには行かず付いて行く。
細い道は小さな川に沿っていて、2人並んで歩ける道幅で、車は通れず、なかなか良い散歩道になっていた。
「この道良いな」
嬉しそうに大石が言う。
「そうだな。初めて通るがなかなか良いな」
川の水は澄んでいて、小さな魚の影も見えた。
「あ、猫だ」
川の反対は、人が居るのか居ないのか築年数の多そうな家が数軒あり、塀の上に丸くなった猫が俺たちを見下ろしていた。
「逃げるかな」
そう言いながら、そうっと大石が手を差し出すと猫はスリッと顔を擦り付けてきた。
「お、可愛い!人馴れしてる。中西も触ってみ」
実は猫好きなんだ。触りたい!!
言われて、そっと手を差し出してみると、ザリっとした舌で舐められた。
「朝ごはんの匂いが付いてたかな?」
大石が揶揄う。
「この辺、猫多そうだな。あそこ子猫が居るわ」
大石に言われ、見てみると2匹子猫が並んで座りこちらの様子を見ていた。
ここは天国かな。
妹が猫アレルギーで猫が飼えないのを残念に思っていたが、こんな良い散歩コースを発見するなんて……!
「この道通って良かっただろ!明日はまた違う道行ってみようぜ」
大石が胸を張って言う。
俺だけだったらこの道は通らなかっただろう。
無難な安全な大きな道を通り、ただ足を動かして学校に着いていた事だろう。
今日がたまたま良い道だったのだと思うが、明日違う道を行くと聞いてワクワクしてしまった。
この道も俺1人だと猫に気が付かなかったかもしれない。
大石が居たからこの道が好きになったのだと思った。
「よし、ここ入ってみよう」
「おい、遅刻するだろ。そこに行きたいなら早い時間に家を出ろ」
すぐ横道に逸れようとする大石を止める役割も必要だ。
うんうん、と俺は自分の必要性を見出した。
「チェッ!今ならどこでも付いて来ると思ったのにな!じゃあ、明日は少し早めに家を出るか。時間決めようぜ!」
工事の間だけだとは思うが、俺は大石と一緒に学校に行く事にした。
明日はどの道を行こうか……。
いつも1人だった道。
これからは変わる。
この道の先に
〜END〜
読んで頂き、ありがとうございました😊
最初のコメントを投稿しよう!