黒雪姫

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 黒い林檎なんて売れるはずがないと思ってました。だから、三日後に満面の笑みを浮かべたルイさんが再びやってきたときにはとてもびっくりしました。  最初はみんな黒い林檎を怪しんでいたものの、一口分を切り分けて食べてもらったところ、あっという間になくなってしまったというのです。  初めは信じられませんでしたが、それからもルイさんは定期的にやってきて林檎を買っていってくれました。途中からはルイさんの部下だという男の人二人も加わって、果樹園からの林檎の運搬なども手伝ってくれるようになりました。  そうして、ルイさんが初めて訪れてから一か月がたつと、売り上げ額は私がこれまでも見たこともないような量になっていました。私一人であれば一年生活しても十分余るほどのお金です。 「今でも夢を見てる気分です」 「言ったでしょう。セラさんの林檎にはそれだけの価値があるって」  今日も林檎を取りに来たルイさんは馬車に林檎を詰め終わると、私の家で一休みしていた。得意げに笑うルイさんは持参した黒パンに林檎ジャムをつけてかじり、ほっくりとした顔を浮かべている。 「ルイさん、本当にありがとうございます」 「お礼を言うのは僕の方です。全部、セラさんが育てた林檎のおかげですから」  ルイさんはそう言ってから私の家を見渡します。私一人が暮らすのに最低限の家具だけ残してあとは売ってしまったので、あまり見られると恥ずかしいです。 「セラさん、一つ提案です。それだけのお金があれば、他の町や村に引っ越してしばらく暮らすことができます」  ルイさんの突然の提案に、理解が追いつきませんでした。いつかこの村を出なければいけないと考えていたことはありましたが、いざ目の前にその選択を示されると、どうしていいかわかりません。 「初めて僕がこの村に来たとき、ここは魔女の家だと言われました。この村でセラさんがどんな扱いを受けているか、部外者の僕でもわかります」  ルイさんは真剣に私のことを心配してくれているようでした。窓から外を見ると、働けでとれた穀物を村の倉庫まで運ぶ子供たちの姿が見えます。親を失った子供たちの中には、その日限りの荷物運びなどのしながらどうにか暮らしている人も珍しくありません。 「ルイさん、このお金で村に孤児院をつくることはできますか?」 「小さなものなら建てられると思いますが……」  私が急にそんなことを聞き出したのが不思議なのでしょう。ルイさんはいぶかしむように私を見ています。 「なら、このお金で建てられるだけ大きな孤児院をつくってくれませんか?」  商人であるルイさんに頼むのはおかしいのかもしれませんが、他に私には頼れるような人がいません。幸い、ルイさんは少し悩みながらもうなずいてくれました。 「知り合いに声をかければできると思いますが……いいんですか? この村は、セラさんに酷いことをしています」 「両親を流行り病で亡くした時、この村の皆さんにはよくしてもらいました。今はこうして私はルイさんのおかげでお金が手に入りました。私は運がよかっただけなんです。だから、この運は今困っている人たちに分けてあげたいんです」  お母さんがまだいる頃、人からしてもらった恩は誰かに返す、運がよかったときは誰かに回すべきだと教えてもらった。もちろんそれだけじゃなくて、引っ越しができない大きな理由がある。   「それに、私はこの村で林檎を育てることしかできませんから」
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