黒雪姫

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 今日も籠に詰めた林檎を背負って山を下ります。少しずつ林檎が採れる量も減ってきました。そろそろ今年の林檎も終わりかもしれません。ルイさんのおかげで来年まで生活できるお金は十分ありますが、林檎が採れなくなったらルイさんは来なくなるのでしょうか。そう考えると少し胸のあたりが苦しくなります。  ルイさんといえば、私がお願いした孤児院は簡単な造りのものですがあっという間に出来上がりました。ルイさんによるとちゃんとしたものをつくるまでの仮のものということですが、既に五人の子供が暮らしているそうです。ルイさんによれば、というのは私が近寄ると子供たちに迷惑がかかるかもしれないので、ルイさんが村に寄るたびに様子を教えてもらっています。 「ユノ君、大丈夫?」 「うん、へっちゃら!」  私の隣には子供用の小さな籠を背負った男の子――ユノ君が歩いています。ユノ君は孤児院で暮らす十歳の男の子で、秘密にしていたはずなのに、どこからか私のことを聞きつけて畑仕事を手伝ってくれるようになりました。  魔女と呼ばれる私と一緒にいると嫌な思いをすると伝えましたが、ユノ君はどうしてもゆずらず、こうして林檎運びを手伝ってもらっています。  家の近くまで来ると、それまで通りで話していた村の人たちは建物の影に隠れたのが見えました。 「ほら、魔女よ」 「あの呪いの林檎で男をだまして金儲けしてるんだろ」 「最近ずっとあの子を連れてるわね」 「きっとよくないことを考えてるんだ」  私は慣れっこですが、ユノ君に嫌な思いをしてほしくなくて早足で通り抜けようとしますが、ユノ君は途中で足を止めてしまいました。  ユノ君――呼びかけようとしたとき、ユノ君は村の人たちに向かって大きく一歩踏み出します。 「ウソだっ!」  ユノ君は私の前に立つと、村中に響き渡りそうな大きな声で叫びました。 「セラ姉が魔女だなんてウソだ! オレ、聞いたもん! オレ達が今毎日食べるものがあって、ベッドで寝られるのはセラ姉のおかげだって!」  ユノ君の言葉に、村の人たちは所在なさげに顔を見合わせます。 「セラ姉が魔女なら、オレ達を働かせるだけ働かせて何もしてくれなかった人たちは悪魔だ!」  そんな村の人たちにユノ君は容赦しませんでした。鋭い言葉にもし村の人たちが怒ったらと身構えましたが、幸い村の人たちは建物の影から去っていきました。村の人がユノ君に手をあげるとは思いませんが、万が一のことだってあるかもしれません。   「ユノ君、私のために危ないことしなくていいんだよ?」 「でも、オレっ! 悔しくてっ……」  ユノ君は俯いて、小さく震えていました。悔しいだけじゃなく、やっぱり怖かったんだと思います。それでもユノ君は勇気を出して立ち向かってくれました。 「ありがとう。ユノ君、ありがとうね……!」  震えるユノ君をぎゅっと抱き寄せます。怖さがどこかへ飛んでいきますように、精一杯のお礼を込めて。
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