黒雪姫

4/6

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ユノ君と家に帰って一休みしていると、ルイさんが林檎の仕入れのためにやってきました。ルイさんは仕入れのたびに孤児院に行ってるからか、部下のお二人が林檎を馬車に運んでいる間にユノ君と遊んでくれました。 「ルイ兄がいないときは、オレがセラ姉を守るから!」  ユノ君はそう言ってさっきの村の人たちとの出来事をルイさんに話しました。ルイさんは「セラさんに心配かけちゃだめだぞ」と言いながらユノ君の頭をくしゃりと撫でて、王都のお土産としてクッキーを渡してました。べ、別にうらやましいとは思ってません。  ユノ君は孤児院のみんなと食べるといって大喜びで帰っていきました。念のため、部下のお二人が送ってくれるそうです。 「はい、これ。セラさんも。さっきじっと見てましたよね」  くすりと笑いながらルイさんはクッキーの入った袋を出してくれました。見ていたのはそっちではないのですが、何も言わずにお皿を用意します。 「先に孤児院を見てきましたが、どの子も元気でやってました」 「よかったです。ルイさんのおかげですね」 「僕は知り合いに声をかけただけですから。みんなセラさんに感謝してますよ」 「あ、さては。ユノ君たちに私のこと教えたの、ルイさんですね」  ルイさんは一瞬しまったという顔をしてから、「クッキーおいしいですよ」とわざとらしい笑顔を浮かべました。魔女が建てた孤児院と知られたら酷い目に合うかもしれないから黙っていてほしかったのですけど、ルイさんが意味もなくそんなことをするとも思えません。 「そういえば、どうしても水汲みが大変みたいですね」  孤児院を建てた場所は村の井戸から少し離れた場所にあります。安くて広い場所がそこにしかなかったのですが、あの距離を水を汲んで歩くのは大変そうです。  そうです。私は部屋の奥に向かい、そこに保管しているものをルイさんの前に持っていきます。 「これで孤児院に井戸をつくることはできますか?」  孤児院を建てた後に貯まったお金を見て、ルイさんは何かを言いたそうに私を見ます。だけど、何も言わずに困ったように笑いました。 「わかりました。少し時間はかかるかもしれませんが、どうにかしましょう」  ルイさんの言葉にほっとします。それに、時間がかかるのであれば――林檎が採れなくなってもルイさんが村に来てくれるかもしれません。  そのあとはお土産のクッキーをいただきながら、部下のお二人の帰りを待ちます。少し遅いですが、孤児院でそのまま遊んでるのかもしれません。   「そういえば、王都で最近流行っているお話がありまして」 それは、意地悪な王妃によって毒林檎を食べて眠りについてしまった白雪姫というお姫様が、王子様のキスで目を覚まして幸せに暮らすというお話でした。 「素敵なお話ですね。でも、どうして白雪姫というお名前なんでしょう?」 「雪のように白くてきれいな肌、だって聞きました」  ルイさんの答えに、私は自分の腕を見ます。村の人たちは農作業をしても肌が赤くなるのに、私の肌は真っ黒に焼けていました。見なくてもわかっていたことですが、少ししょんぼりします。 「私には、お姫様にはなれそうにないですね」  もし肌が白かったとしてもお姫様になれないのはわかっていますけど、やっぱり憧れてしまいます。すると、ルイさんはパッと私の手を取りました。 「僕は好きですよ。この手は一生懸命働いた証です」  しばらくルイさんと見つめあって、それから慌てて手を放して顔をそらします。ルイさんの顔は普通の林檎みたいに真っ赤になっていましたが、私も顔が熱いので同じようになっていると思います。   「そ、そういえば。最近王都で黒死病という病が流行りだしたらしいです。セラさんも気を付けてくださいね」  ルイさんが話題をそらすように向こうを向いたまま話し出します。それは、肌が黒く変色して死んでいく怖い病気とのことでした。少しずつ王都の周辺の街にも広がっているらしいです。  やがて、ルイさんの部下のお二人が戻ってきて、ルイさんたちは帰っていきました。怖い病気のことは心配でしたが、また来ますというルイさんの言葉に少し胸が躍ります。  ルイさんがいて、ユノ君たちがいて。どうかこんな平和な日が続きますように、私は願いを捧げます。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加