黒雪姫

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 村から離れたところで馬車が止まると、私は荷台から下ろされました。  兵士の一人が近づいてきます。どうしても、腰の剣に目が行ってしまい、怖くて目をぎゅっと閉じます。  ガチャリという音がして――けれどそれ以上は何も起きなくて、恐る恐る目を開けると私の手枷は外れていて、目の前には兜を脱いだ兵士がいました。 「……ルイさん?」 「手荒なことをしてすみません。ですが、上手くいきました」  兜を脱いだ兵士の中身はルイさんと部下のお二人でした。思わず、小さく微笑むルイさんの胸に飛びついていました。  ルイさんによると、村の人たちがルイさんに私を連れて逃げるようお願いしたそうです。だけど、ルイさんが村に着いた時には村は既に囲まれていて、村の外の人たちの目を欺くたびに魔女を捕まえるためにやってきた兵士の芝居をしたということでした。 「どうして、村の人たちが……」  あの時、村の入り口からは私を庇う村の人たちの声が聞こえてきました。それまでは村の人たちも私のことを魔女と呼んでいたはずです。 「一か月前のユノ君の言葉に、思うところがあったんじゃないでしょうか。皆さん、根はいい人で黒い林檎が怖かっただけなのかもしれません」  確かに、黒い林檎がなるまでは皆さんとても優しい人たちでした。  だからってこれまでのことが許されるとは思いませんけど、と付け足してからルイさんは立ち上がる。それから、しゃがみこんだままの私に手を差し出しました。 「黒死病が落ち着くまで、僕の故郷に隠れましょう。王都からは離れていますけど、水が綺麗ないい村ですよ」 「でも、私、ルイさんに返せるものがありません。黒い林檎も、もう……」  お金はすべて家に置いてきてしまいましたし、林檎畑もきっと燃えてなくなってしまいました。それに、今後、黒い林檎を売ることはできないでしょう。だから、そこまでしてもらっても私はルイさんに何もお返しができません。  「それなら、僕は今から悪徳な商人になります」  そう言ってルイさんは私の手を取ってぐっと引き寄せます。突然のことにバランスが崩れて、ルイさんに寄りかかるように倒れこむと、そっと抱きとめてくれました。 「返すものがないなら、セラさん。僕はあなたが欲しい」  すぐ目の前にルイさんの顔があります。真っ赤な顔で私を見るルイさんは、きっと悪徳商人には向かないと思います。そんなルイさんだから、答えはもう決まっていました。 「僕の村に隠れるためではなく、僕の隣を歩くために、一緒に来てはくれませんか?」  答えの代わりに私はぐっと顔を寄せて、顔が真っ赤な王子様にキスをします。   
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