貴方を拾った日

5/7
前へ
/24ページ
次へ
 僕はただの善意だけで彼を連れて帰ってきた訳では無い。  僕は大学に入学して間もなく、彼に一目惚れをした。  そして彼が既に既婚者であると噂で知って、失恋した。  それでも僕の心は彼を想うのを止めようとしてくれない。  だから僕は彼に近寄らないようにしていた。  彼に僕という存在を知られるのが怖かった。  彼に僕の気持ちが見透かされて、彼に拒絶されるのが怖かった。  彼の幸せを少しでも壊してしまうかもしれないことが怖かった。  遠くから安心して見ていられれば、それだけで良かった。  でも寝ている彼を見つけた時、思ってしまったんだ。  彼を一時助けた人として、彼に覚えていてもらえるかもしれないって。  そんな下心で連れて帰っただけなんだ。  胸が痛くて痛くて、本当のことを全部話してしまいたいけれど、それこそ一巻の終わりだ。 「僕は、そんないい子じゃありませんよ」  なんとかそれだけ言葉を絞りだす。  彼がどんな顔をするのか、怖くてうつむいて見えないようにした。  それでも彼の僕の頭を撫でる手は止まることなく動き続けていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加