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僕はただの善意だけで彼を連れて帰ってきた訳では無い。
僕は大学に入学して間もなく、彼に一目惚れをした。
そして彼が既に既婚者であると噂で知って、失恋した。
それでも僕の心は彼を想うのを止めようとしてくれない。
だから僕は彼に近寄らないようにしていた。
彼に僕という存在を知られるのが怖かった。
彼に僕の気持ちが見透かされて、彼に拒絶されるのが怖かった。
彼の幸せを少しでも壊してしまうかもしれないことが怖かった。
遠くから安心して見ていられれば、それだけで良かった。
でも寝ている彼を見つけた時、思ってしまったんだ。
彼を一時助けた人として、彼に覚えていてもらえるかもしれないって。
そんな下心で連れて帰っただけなんだ。
胸が痛くて痛くて、本当のことを全部話してしまいたいけれど、それこそ一巻の終わりだ。
「僕は、そんないい子じゃありませんよ」
なんとかそれだけ言葉を絞りだす。
彼がどんな顔をするのか、怖くてうつむいて見えないようにした。
それでも彼の僕の頭を撫でる手は止まることなく動き続けていた。
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