和風カフェとその後の話①

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和風カフェとその後の話①

 和風カフェに来て、わたしはよほど緊張していたのか。  メニューもろくに見ずに、「わらび餅の乗ったパフェと抹茶ドリンクをお願いします」とオーダーしてしまった。この店のメニューの中では一番好き。忍田先輩もわたしにつられてしまったか、同じものをオーダーしてる。  パフェを目にした時の、先輩の驚きようがすごい!!!  小さな子供みたいに目をキラキラさせて、わらび餅とパフェのコラボレーションに魅入られてる。  わたしの脳裏に鮮やかな「ある色」が浮かんだ。  インスピレーションがこんな時に降りてくるなんて。  わたしは平静を装いながら、先輩と取り止めのない雑談をするように努めた。けれど、先輩がとても美味しそうにパフェを食べていて、今日は素顔なのがもうー。また憎らしいですよね。  とても可愛らしい顔立ちなのに、どうして、キモチワルイメガネなんかでいつもは隠してるの? 生徒会長さん。  胸がバクバク、ドキドキして、その素顔が心臓に悪いよ。  帰宅したらすぐに絵を描くつもりでいたのに、今夜はおばあちゃんが「アトリエ」を使うと言ってた。 「おばあちゃん、わたしね、アトリエを男の先輩に見せる約束しちゃったの」  おばあちゃんはわたしには甘いけれど、芸術にはとても厳しい人だ。怒らせないように、障子の向こうのアトリエで筆をとってるおばあちゃんに、慎重に言う。 「男にちょっかい出されたのかい?」  おばあちゃんの厳しい声に、背筋が伸ばされる。  ちょっかい出してるのは、わたしの方なんです。おばあちゃん。 「すごくいい先輩だから、安心して。アトリエ、どうしても見せたいの」  おばあちゃんに必死に頼み込む。 「ああ、そうかい。わたしの筆の邪魔になるから、とりあえずその話は明日の朝にしておくれよ」  おばあちゃんはそう言って、あとは日本画を描く音だけが障子越しに響いてくる。  わたしも自分のアトリエがほしい。  部屋に戻ると、A5のスケッチブックの一ページを一面、青紫色の色鉛筆で塗りつぶした。  なにか。なにかをわたしは産める。  次のページも、同じ色で塗りつぶす。若干の濃淡をつけて。青紫色。ううん。スミレ色の「何か」がいま、わたしの中に降りてきてる。  
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