和風カフェとその後の話②

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

和風カフェとその後の話②

 次の日は、朝五時にアトリエに入った。  キャンバスをセットして、油絵具を慎重に混ぜる。  わたしのイメージする「スミレ色」に絵の具の色を近づける。  その絵の具を、乱暴に絵筆でキャンバスに投げていく。  わたしの絵画はいつもこうだ。インスピレーション頼みで、一つの色彩にとことんこだわる。  この間は緑色にこだわっていたけれど、今日は「スミレ色」にこだわってる。こんなにも。  脳裏に先輩の顔がチラチラ浮かぶ。  苦しいよね。これって、恋、なのかな。    窓の外でパラパラと小雨が降ってる。  その小雨もインスピレーションにして、朝ごはんなんか食べないで、昼ごはんも我慢して、ずっと描き続けていた。  一つのキャンバスが終わったら、また違うキャンバスをセットして、同じような絵をひたすら描いた。  もうキャンバスは三作目。 「恋なのかも、しれないよね」  まだ完成していない三作目の絵を恨めしげに見て、わたしは先輩と会う支度を始めた。   このアトリエを見せないとならない。  わたし、何やってるんだろ。  あの先輩に、なにもかも調子を狂わされてる。 「おばあちゃんー。わたしの描いた絵、絵の具が乾いたらしまっておいてねー」  おばあちゃんに声をかけると、「いま、羊羹食べてるから、そのあとしまうわい」と、いつものダミ声でおばあちゃんは答える。  わたしは家の外に出て、雨上がりの空気を吸った。  先輩に会いに行くために。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加