スミレ色の伊達メガネ②

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

スミレ色の伊達メガネ②

「見せたいものっていうのはこれ。かけてみるけれど、笑わないでほしい。絶対に」  先輩が真剣な目をして見せたのは、「スミレ色のフレームのメガネ」。おそらく、伊達メガネなのかな。  え、もう一つ伊達メガネを作ったの???  お金あるんだな。三年生くらいになると。なんか、すごいな。気迫が面白くて笑ってしまった。  先輩がそのメガネをかける。  一瞬で、雰囲気が変貌する。  知的な印象はそのまま。だけれど、もう、ね。なんというのかな。  ちょっぴりエロいんだよね。スミレ色の醸し出す雰囲気と、先輩の可愛い顔が絶妙にマッチして、ね。 「あ、すご」  声が出てしまう。  先輩はそのちょっぴりエロい印象のまま、言葉は生真面目にこんなことを言った。 「俺とお付き合いしてほしいんだ。なんか、妹みたいに思ってて。ずっと大事にするから。一緒に、いろんなところに出かけたいから」 「それって………。わたしを『好き』って気持ちなんですか」  心臓にすごく悪い。こんな展開、あるの?  嫌われたかと思ってた。なのに。  泣きそうになったわたしの頭を、先輩はポンポンとしてくれた。  罪な男だな。 「先輩、やめてください。あーもう。スミレ色っていうのは先輩にすっごくよく似合うんです。反則級に似合うんです! 何でも言うこと聞きますよ」  わたしは内心、キスとかしてもらいたくてそう言ったんだけどな。  忍田先輩は大人だ。生徒会長という立場もあるんだろうな。優しく手を繋いで、公園を一周だけして、その日はさよならした。 「付き合ってるんだよね! これ!」  夜、興奮して眠れないわたしは、アトリエに入ろうとしたところをおばあちゃんに止められた。 「結衣はもう、夏休みまで絵は禁止!」  おばあちゃんはニヤリと笑い、そんなことを言う。 「恋に邁進してごらん。絵よりはいいもんが見られるかもよ」  おばあちゃんは全てお見通し。わたし、何にも話してないのにな。  おばあちゃんはアトリエにわたしの代わりに入った。これから創作を始めるみたい。  邪魔をしないように、わたしは二階の自分の部屋に戻る。ベッドの脇に置いてあったスマホに、先輩からの通知が届いている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加