未練

　白と黒の縞模様、と聞いて、あなたは何を思い浮かべただろう？
　この情報だけだと、縞馬を思い浮かべる人が多いのではないかと思う。
　ここで、情報をひとつ追加しよう。
　線香の香り。
　大体の人は、なるほど。と思われたのではないだろうか？
　そう、葬式だ。
　今、私の眼前では葬式が行われている。
　そんなに大きな葬式でもないが、お経に混じって時々すすり泣く声が聞こえる。
　愛されていたんだなぁ、と、泣いている人や故人と所縁のある物、綺麗な花で飾られた会場を見回して思う。
　こんなに愛されてたのに、愛されてることも気付かないで死ぬなんて、なんて馬鹿なやつ。
　会場の後ろで全体を見回していた目を、会場の中心にある遺影へと向ける。
　遺影の中の故人は、晴れやかな笑顔で笑っていた。
　こんな風に笑える瞬間だってあったのに、死んでしまったら全部お終いじゃないか。
　やるせなくなって、天井を見上げた。
　暫くそうしていると、お経の声が止み、棺桶に花を手向ける時間になったようだった。
　はあ、と大きく息を吐く。
　とても気乗りしない。けれど、最期なのだ。行かなくては。
　棺桶に近づき、そっと中を伺う。
　菊や百合、綺麗な花を手向けられて眠るその姿を、私は初めて見た。
　思ったより衝撃はなかった。
　けれど、仲の良かった友人や家族が涙を湛え震えながら花を手向けている――――。
　その姿を見たら、自分でもビックリするくらい涙が零れた。
　どうして、どうして死んじゃったんだろう。
　ごめんね、って。冗談だよ、って今すぐ起きて皆の涙を拭ってあげたい。
　なのに、いくら泣いてももう皆に私の声は届かなくて、どんなに頑張っても私の手は皆に触れられない。
　もっと、ちゃんと伝えてればよかった。
　毎日、ずっと。大好きだよって、ありがとう、って。
　こんな後悔、したくなかったなあ。