夏といえば

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 イルカショーが終わり名物のジンベイザメを見ると、あっという間にお昼の時間だった。これだけ混雑しているのだ、食事の席取りには苦労しそうだ。  俺の予想は的中した。ようやく席を確保すると一つ問題が発生した。誰かが席に座って交互に注文しに行かなくてはならない。こういう場合はじゃんけんで決めるのだろうか。 「茜と舞は先に注文しに行きなさい。私が残るわ。もちろん、あなたもよ」  どうやら、俺もお留守番らしい。二人が去ると美里さんは真剣な面持ちで俺を見つめてくる。 「さっき、茜から質問があったわね?」  ああ、誰が一番好きか、という問いかけか。 「さて、あの質問では三人の中でだったわね。もちろん、私も含まれているわけだけど、あなたの答えが聞きたいわ」  意外な言葉だった。まさか美里さんも気になっているのか? つまり、それは……。  俺は答えに困った。美里さんにも心惹かれるところがある。俺をスケッチしている美里さんはいつもと違って表情が柔らかだ。いや、柔らかを通り越して笑顔だった。普段のクールさとのギャップがあった。  しかし、茜や舞さんも捨てがたい。茜にはいつも振り回されてばかりだが飽きないし、舞さんは年下の俺に優しくしてくれる。三者三様の良さがある。  答えに困って考えこんでいると、次第に美里さんの表情が曇り出した。早く答えなければ、と焦っていたところに茜が戻ってきた。 「あ、お母さんもしかして抜け駆けしようとした?」 「なんのことかしら。茜が戻ってきたから、私も注文に行ってくるわ。あなたもよ」  美里さんに続いて席を立とうとした時だった。茜が見上げながら小声で言う。 「私、お邪魔虫だった?」 「いや。むしろ助かったよ」  俺の返事に「よかった」と茜は返した。  そんなこんなでお昼も終わり、一通り水族館を満喫すると、閉館まで残りわずかとなった。舞さんの希望どおりショッピングの時間となったわけだ。俺は荷物持ちを買って出た。ぬいぐるみには興味がないし、友人のいない俺はお土産のお菓子を買う必要がない。 「何言ってるの? 君も私と一緒にショッピングするのよ」  舞さんからご指名があった。 「ほら、早く」  俺は手を引かれてお土産屋さんに向かった。  やはり舞さんもぬいぐるみが目当てなのだろうか。そんな俺の考えは外れた。連れてこられたのはキーホルダー売り場だった。舞さんは真剣な表情で品定めを始めた。 「ねえ、君はどれがいいと思う?」  どれも同じように見えるが、名物のジンベイザメがいいのでは? と答える。 「なるほど、いい考えね」  そう言うと舞さんは二つキーホルダーを持った。 「あの、一つじゃないですか?」 「当たり前じゃない。二つないと君とお揃いにできないじゃない」  そう言う舞さんの笑顔は眩しかった。  家に帰るとどっと疲れが出た。別に歩き疲れたわけではない。ベッドに寝転びながら考えた。どうやら俺は三人が気になっているらしい。春までは女性に免疫がなかったのに。そして、俺の勘違いでなければ、三人とも俺に気がある。その三人と同じ屋根の下で暮らしている。俺は思った。いつか誰か一人を選ぶ日が来るのだろうか、と。
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