家庭教師求む!

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 俺は過去の応募者たちの話を思い出した。そして、高額な時給。そこから導き出される結論はただ一つ。学生が賢すぎてみんなお手上げだったのではないだろうか。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ。茜、いらっしゃい」 「はーい」  返事とともにリビングに女の子が入ってくる。パッと見の印象は活発そうな女の子、そんな感じだった。それはショートカットが原因に違いない。髪形だけで決めつけるのもどうかと思うが。 「お母さん、この人が次の人?」茜と呼ばれた女の子が言う。 「ええ、そうよ。いたって平凡だけど、もしかしたらあなたのお眼鏡にかなうかもしれないわ」 「へー。お母さんがそんな風に言うなんて珍しいね。ハードルがあがっちゃった」  おいおい、ハードルがあがっちゃあ困る。せっかく母親にいい印象を与えたのに、これじゃあ台無しだ。 「お兄ちゃんに質問するね。答え次第で採用するか決まるから、覚悟してね?」茜が言った。  質問に答えるだけで決めるのか? 学力の問題ではないのか? そんなふうに考えているとさっそく質問が飛んできた。 「お兄ちゃんの好きな色は何色?」  好きな色? 俺は無難に紺色と答える。 「へえー、紺色かー。私はピンクね。可愛い私にピッタリだもの」  自分で言うか。でも、単なる自惚れではないと思う。成長したら美人になるのは見たら分かる。 「それで、兄ちゃんは何色が好きなの?」  好きな色? さっき答えたはずだ。紺色、と再び答える。 「ふーん、紺色かー。いたって平凡な答えね。無難とも言えるかも。私が好きな色はピンクよ」  ますます訳が分からなくなってきた。この問答になんの意味があるのだろうか。  そんなことをボケーっと考えると、茜と呼ばれた少女は目を潤ませて、見つめてくる。 「お兄ちゃんが好きな色は紺色なのね? そっかー」  そうか少女の求める答えが分かった。でも、確信はない。この問答に俺が家庭教師になれるかがかかっている。もし、面接で不合格でもその時はその時だ。別の募集に応募すればいい。 「俺の好きな色は……ピンクかな。今は春だし、桜が見る人々の心を惹きつけるから」  次の瞬間、母親と茜が目を合わせる。 「お兄ちゃん……合格!」  合格。いまだに信じられないが、歴代の応募者が全滅だった理由が分かった。茜は自分の好みに合わせてくれる、いや言うことを聞いてくれる人を求めていたのだ。  次の瞬間、ドアが再び開いて別の女性が入ってきた。
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