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…
彼らの待機地には、スーパーマーケットが点在していてその周辺だけでも五軒だった。タリバンの手にかかっていないようで、爆撃による廃墟もなかった。市民の多くはカンダハルから避難しているため、いずれも もぬけの殻である。
ユンソルとタジは食糧係を任命されて、夜中の三時から周辺を歩いていた。タジは物静かな男で、足音すら忍び足が染み付いているようだった。タジとしっかり話したことはないが、アジョウに殴られた時に真っ先にユンソルの前に立って庇ってくれた人だ。口数は少なくても、タジから守られていることはよく分かっていた。
さっきのリーとの会話でも、状況の把握が早く、この場合はどう答えるべきなのか、双方に波風を立たせないようによく考えている。思慮深さが垣間見えた。
「ユンソル」
いきなり名前を呼ばれて、ハッとした。タジは一軒のスーパーマーケットを指さした。ドアが開けっ放しになっていて、店内がひどく散乱している様子もある。中に入ろうと、タジは親指を指した。
「はい」
ユンソルは頷いて、タジに続いて店内に入った。二人共、拳銃を構えながら中へ進んでいく。
「ほとんど、とられちゃってますね」
陳列棚に食糧と思われるものはなかった。床に落ちている缶詰は開封済だ。
「うーん…
レジに行こう」
タジの提案に首を傾げつつ、ついていく。タジはレジカウンターに入ると、引き出しの中を覗いた。使い捨てのカトラリーが入っているが、その下の引き出しにはスナック菓子が3つ入っている。他にも缶詰が5つ入っていた。
タジに倣って、隣のレジ台を調べる。やはり同じように、へそくりみたいに食物が入っていた。
「くすねていたんですね」
ユンソルが呟くと、タジは頷いた。
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