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父は前進していき、熊の頭を狙って撃ち込んだ。今度こそ熊は体を大きく反らしていた。
熊が四つん這いになり、恐竜のような迫力で叫ぶ。それに気圧されて、父もまた尻もちをついた。敵意は次こそ父に向けられた。熊は頭から血を流しながら、力強く地面を蹴り上げて突っ込んできた。
こんな時に限って、ライフルが弾づまりを起こす。慌てて体を横に転がしてしまおうとした時、「パンー!」と甲高い音が響いた。
熊の左脇腹に一発が撃ち込まれた。
不意をつかれたように、熊が前のめりに倒れる。父は熊の後ろで窪みから半身を出して、ライフルを構えるユンソルが見えた。ユンソルの銃口から硝煙が出ている。
父はハンターナイフを引き抜いて、倒れた熊の脳天目掛けてナイフを突き刺した。抵抗した熊の左手が、父の左膝をかすめる。電気のような痛みが走り、血の噴き出す足を抑えた。
ユンソルが駆け寄ろうとしたが、父が「来るな!」と叫んだ。ピタリと足を止めた。心臓が口から出そうなほど、バクバクしている。
まだ熊に息があったのだ。
だが、熊は動けそうにない。着実に忍び寄る死を迎え入れようとして、無駄に動こうとしなかった。ナイフを突き立てたままにして、弾づまりした銃をユンソルに投げ渡した。
「詰まったんだ。
直せるか?」
「うん」
ユンソルは震える手で弾倉から弾を取り出す。新しく入れ替えてから、手を伸ばす父のほうへ投げ返した。
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