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閑散としたモスク前広場にスコープの照準をあてがう。西日に当たって銃身はひどく熱い。反射をさけて、布カバーを銃身にかぶせている。
ユンソルは右手に持ち替えて、トリガーの感触を確かめていた。その感触を待ち焦がれていたかのように、指の腹が異様にフィットする。指の腹全体で、トリガーに抱きついているような感じだ。その執着は、ユンソルの体全体に行き渡っている。
(そうだ…この感じだ。
やっぱり右腕のほうが
しっくり来るな。)
モスク前広場の噴水池に黒のボストンバックを持った男がやってきた。辺りを警戒するように目を向け、それから噴水を囲う段差にそれを置く。あまりにも丁寧に置いている。
ユンソルはスコープの向きを男の胴体、顔、右腕、それからボストンバックのほうに向けた。男の携帯が鳴り、しばらく画面を凝視してから電話にでている。
辺りを確認しているのは、電話の相手を捜しているのだろうか。
男をスコープで追っていると、トゥクが部屋に入ってきた。ユンソルが右腕に持ち替えているところを見ると、ちいさく笑いかける。それから真顔に戻って、双眼鏡を構えた。
「タリバンか?」
「恐らく。」
「あのバッグはなんだ」
「……誰かと電話をしているんですけど、
ひょっとしたら取引相手でしょうか」
その時、男が携帯の画面を操作した。
自分の顔を映さずに、足元を映す。
「ビデオ通話に切り替えたな。
何やってんだ」
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