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「ユンソル。場所を変えよう」
距離が1300mはある。
トゥクの指示で、ユンソルはその場を離れた。モスクに近づくように茂みの中に入っていく。
茂みの中に入ったのは、彼らだけじゃない。
すぐに銃声と反射光を目の端で捉えた。枝葉が打ち砕かれていく。散り散りになる木々に揉みくちゃにされるように、ユンソルは視界を腕で覆った。
「左だ。敵が三人いる。」
トゥクの怒鳴り声が聞こえた。
ユンソルより先にトゥクが狙撃する。二人が撃たれて、一人は木の幹に隠れた。
また後方から彼らを狙う刺客がいる。ガサガサという足音が薄暗がりの茂みの中を走り回る。ユンソルは走り回りながら、ふと視界が白くなる感覚を覚えた。頭が割れるほどに、足音が大きく聞こえる。それなのに、トゥクの声はいっそう小さくなった。
左に二人いる。5時の方向だ。
ユンソルは立ち止まると、つんのめったトゥクを押しのけた。トゥクは枯葉の山に倒れ込む。ユンソルはライフルを前に持ち替えて、後ろを振り向き発砲した。
相手の小さなうめき声を聞く。
ザザザ…。
また足音が鮮明に聞こえる。
ユンソルの視界に人影がくっきり2人分映し出した。ユンソルはまた体の向きを反転させ、シルエットに向かって迷わず引き金を引いた。
乾いた銃声が茂みの中で響いた。トゥクは枯葉の上をなぞるように視線をあげる。額に穴が空いた死体が2つ並んでいた。ユンソルのライフルの銃口から煙が出ている。
「ああ…弾切れです。」
そういったユンソルは意味深に微笑んだ。その余裕の顔から垣間見える敵への侮蔑と冷酷さが、トゥクには化け物のように見えた。
誰かがいった。
"被験者は、
殺人に快楽を覚えるように作られている。
人間の皮をかぶった化け物だ"と。
トゥクは頭を振って、その声を薙ぎ払う。自分が見てきた青年ユンソルは、心優しい子だ。じゃあ、なぜこんなうわさが出る?
ユンソルが歩兵にいた期間は短い。
その期間になにか、
問題行動を起こしたというのか?
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