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その日の夜更け。
やはり山間の村には濃い霧が落ちて、一面が白く霞んでいた。眠っていたユンソルを起こしたのは、一発の銃声だった。かなり近くで聞こえた。ユンソルは飛び起きた。隣の部屋では、ぐずり出したハニを母が抱っこしている。
「お母さん」
ユンソルが声をかけると、母もまた不安そうな顔で振り向いた。
「こっちにおいで、ユンソル」
母はユンソルを片手で抱き寄せて、背中をトントン叩いた。
廊下の方からガシャガシャと音が聞こえ、ドアが開くと父が立っていた。肩には二挺のライフルがかけられている。優しい父の顔が違った。険しい顔つきになっていて、母と見つめ合っている。
「行ってくるよ」
「ええ。気をつけて」
父が立ち去ったあと、ユンソルの背中を叩いていた母の手が震えだした。
「ユンソル。
大丈夫よ。あなたにはお母さんがいる。」
ユンソルは母の顔を見上げて頷いた。
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