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銃声があったのは、村長の家のほうだった。
熊が山から下りてきて村長宅を襲った。父が、他の討伐隊と到着した時には村長の妻が玄関先に蹲っていた。
父が声をかけて振り向かせると、顔の皮膚が捲れ上がって夥しい血が流されていた。すでに息絶えていた。
村長を探すべく、彼らは家の中に入っていく。
家具はさんざんに荒らされ、タンスや食器棚がなぎ倒されていた。薬莢が落ちていたのは、寝室に向かう廊下である。血のついた薬莢を拾い、それを辿っていく。
寝室に仰向けに倒れた村長の姿があった。
腸を掻き出されている、見るに耐えない無惨な姿であった。
その場で吐いたものもいた。
熊の足跡がベッドに残っている。そこから窓が開いていて、生ぬるい風が入り込んでいた。血の匂いと獣の匂いが入り混じっている。
「村長が…やられちまった…」
討伐隊の男たちが口々に「熊だ」とささやく。
「サンチョル。
熊を討とう!
村長の仇をとるんだ!」
息巻く男たちは彼の肩を掴んで言ったが、父は頭を振った。
「俺は何も失いたくない。
来たら迎え撃つさ。
だがな…命を無駄にして、自ら熊のいる山にいく
必要はないはずだ。
生きて家に帰り、
妻や子どもたちを安心させること。
それが今俺たちに出来ることだ。」
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