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下宿
古びた下宿がある。
階段の踊り場にあるステンドグラス風の窓のように、洋風の趣も混じった建物だ。
下宿として機能しているのは二階の一室。
夕方の今、部屋では細身の若い洋装の男が、畳の上で寝っ転がって本を読んでいた。
彼は読書に集中していた。だが、外から階段を上る音が聞こえて、耳にも意識を向けた。
足音が近付いて、間もなく部屋のドアが開いた。
「ただいま! 水晶」
大柄な男が二つの紙袋を持って部屋に入る。
水晶は帰宅した同年代の男に、特に挨拶もせずに起き上がった。
「菫青。また土産か」
「そうだよ。一緒に食べよう」
菫青は紙袋を机の上に置いて、その一つの中身を外に出した。和菓子屋の草団子の箱だ。
「そうちょくちょく買って、太るぞ。それ以上デカくなるつもりか?」
水晶は三白眼気味の自身の目で菫青を見上げた。
指摘を受けた菫青の柔和な顔立ちは、少し困った様子になる。
「食べ過ぎには気を付けるから……でも、これは大家さんへの普段のお礼も兼ねているんだよ」
「そうか。もうそんな時期か。まだ決めてなかった」
「じゃあ近い内に、この前開いた店に一緒に行こう。そこで水晶が選んだものを大家さんに渡せばいいんじゃないかな?」
「お前が付いてくる理由は?」
「僕らで食べるものも選びたいからね」
「やっぱりお前が食べたいんじゃねえか」
図星を刺された菫青は、照れ笑いをしていた。
水晶は、自分と菫青用の団子が入った箱を見ていた。
「まあ、旨そうだな。茶を入れてくるついでに、お前からだって渡しておく」
水晶が贈答用の紙袋を持って部屋から出ると、菫青は嬉しそうに、おやつを食べるために箱を開けた。
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