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 昼近くまで起きられなかった水晶(すいしょう)は、部屋の中で無為に過ごして夜を迎えた。 「水晶。散歩に行かないか」  菫青(きんせい)の誘いで二人は夜道の散歩に出かけた。  人の気配は途絶え、空にはほとんど雲が無い。 「星がよく見えるね。でも今日は月が出ない日か」  菫青につられて見上げると、なるほど満天の星だが月は見当たらない。 「そう残念がることもないだろ。今夜は太陽がどこも照らさないだけだ」  少し歩いて、再び水晶が口を開いた。 「月は太陽の光が当たんなきゃ、誰の目にも触れない石くれなんだ」  空を仰ぐ水晶の隣の菫青は、何も答えない。  やがて、来た道を引き返す段になると、「水晶」と呼びかけた。 「太陽が見えないことを、なんと言う?」 「なぞなぞか?」 「そうじゃない」 「夜」 「じゃあ、月が見えないのは?」 「あーっと……新月」 「ほら! 名前がある! 月は見えずともそこにあると知られているんだ」  見えない月が名付けられていることを力説した菫青に、水晶は全く表情を変えなかった。 「太陽が失せたら、見える世界の名も変わるんだ。昼が、夜だ」  視線が交わらないまま、二人は歩く。
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