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課題
「菫青、課題やってんのか」
「うん」と水晶に応じる顔は眠そうにしている。
夜遅く、菫青は提出間近の学校の課題が終わっていない。
今日、徹夜しないと間に合わない。
「水晶はこれ、終わった?」
「とっくのとうに渡した」
「すごいなあ。やっぱり頭がいいんだ」
「良し悪しじゃなくて、早く書き出せば早く終わるんだよ」
「ううぅ……そうは言ってもさあ」
のろのろ書き進めていた菫青は、顔の向きを机上から本を読む水晶に移した。
「水晶は、まだ起きるの?」
「おう。ランプの明かりにしなくていい」
「僕はしょうがないけど、水晶は早く寝た方がいいよ」
水晶は下宿に来るまで療養所にいたと菫青は聞いていた。
病弱なのに夜更かしが多い同居人を心配する菫青に、水晶は意地悪そうに笑う。
「平気だよ。俺は吸血鬼なんだ」
冗談を言って、水晶は再び本に視線を戻す。
ところが、妙な静けさを感じて読み止し、顔を上げた。
菫青が若干目を見開いて、自分の首を手で隠していた。
「ごめんね。僕は血をあげたくないんだ。人間として生きたい」
「いらん、お前の血など」
「そうだ。明日の朝、大家さんに魔除けになる食べ物を入れないように頼まないと」
「馬鹿。俺は人間だ。起きていたいから起きてるだけだよ」
「本当に?」菫青は手を首から外した。
「ああ、心配するな。寝てる方が捗るならそうするが」
「実は、水晶が一緒に起きているのは嬉しいよ。一人だけ起きているのはさみしくて」
「それで、終わったか?」
菫青は大急ぎで鉛筆を動かして、なんとか次の日に課題を提出した。
勉強が手に付かないでいる菫青には、吸血鬼が進捗を訊ねてくる。
「おい、いつまで起きてんだ?」
「ごめんよ。もうすぐ終わるから!」
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