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手紙
親からの手紙が着いた水晶は、それを読み終えるとすぐに閉まった。
それからしばらくして、菫青の父親から郵便物があった。
読み通した菫青は、返事を書くために机に向かっていた。
「家族にか」と水晶が問う。
「うん。しっかり勉強していると書くよ」
「嘘つきめ。課題が終わらないで焦る夜が多いくせに」
「……でも、勉強してはいる」
水晶の茶々を流して、菫青は黙々と手紙を書いた。
「終わった。今から出しにいくよ」
菫青は手紙を持って、水晶と昼下がりの道を歩いた。
「お前、律儀だな」
口を開いた水晶に菫青は顔を向けた。
「家の人が心配しているから送るだけだよ。僕は東京に一人で行ったもの」
「心配だろうな。都会モンは冷たいって言うしなぁ」
「生まれがどこであれ、人には意地悪なのも善良なのもいるだろう」
「そうだな。だが、俺はお前ほど純真な奴は見たことない」
「純真では無いよ。現に僕は勉強が苦手なのに、この手紙では熱心に学んでいるみたいだ」
「なあ、お前。柘榴石を知っているか」
「見たこと無いよ。宝石だよね?」
「そう。ガキの頃に母親の持ち物で目にしたんだが、真っ赤で、『綺麗だ』と感じ入った」
水晶は右手を胸に置いた。
「お前といると、あの柘榴石を見た心地になる。こんなに善良な人間は初めてだ」
薄く笑む水晶の称賛に、菫青は目を輝かせていた。
「帰りに宝石を見に行こう!」
菫青の提案に、水晶は不服な顔をした。
「行って高い買い物させられるのはイヤだ。金をかけるな」
「じゃあ、目にも麗しい菓子でも買おう」
断られた菫青は少ししょんぼりした。
結局、手紙の投函が終わってから、ちょっといい値段の和菓子を買った。
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