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黒く塗りつぶせ
う~ん。
あったよな。そういう歌。
たしか親父が歌っていた様な気がする。
俺はそんなことをぼんやりと考えながら目の前の壁を黒く塗りつぶしていた。
今や、世界中の壁が黒く塗りつぶされているんだ。仕事がない人も塗りつぶす仕事を貰ったから食べていくことはできるようになったんだよ。
塗る場所は、壁だけではなく、道路なんかも全部なんだから。
人が歩く範囲の草むらは刈り取られ、地面はむき出しになり、その上をも黒く塗りつぶす。
森には空から、大掛かりに黒いペンキをばらまいている。
まぁ、森は決まった人しか入らないので、あまり危険も少ないとは思うのんだけど・・・
外出する時に太陽が出ている時には必ず着ぐるみタイプのマスクをかぶるようにと政府からの指令も出ている。
この所、自分の影に襲われる事件が相次いでいるんだ。
それも、顔の部分の影がどこかに映ってしまうと影のはずなのにいきなり自分の顔が話しだし、影に指示を与え、自分を乗っ取りに来るんだ。
乗っ取られた人は真っ黒になっているのですぐにわかるのだが、今や全人類の3分の1が影に乗っ取られてしまっている状態だ。
影に乗っ取られて影人間になった人物はそれまでの自分の行動には変わりがないんだけど、家族の事や友人間などの人間関係をすべて忘れてしまうんだよ。
それでいて、家や職場は覚えているので人間の時と同じように過ごすから始末が悪い。
影人間を家族や友人、会社の人が排除しようとしても、力が人間の比ではないので乗っ取られていない普通の人間が逆に排除されることになってしまう。
困った政府はこれ以上の被害が広がらない様に、顔の影が映らないように着ぐるみを被って形を変えたり、影の映る場所を黒く塗りつぶして影が映らないようにするという政策をとっているというわけだ。
影人間たちは、黒く塗りつぶされた場所を逆に白く塗りつぶし始めているんだ。
そして、着ぐるみを被った人たちの頭から着ぐるみをを脱がせに来るんだ。
まだ3分の2は普通の人間なんだけど、何せ影人間は力持ちだ。
地球上では黒くなったり白くなったり、地面が忙しく塗り替えられていく。
もう休む暇もなく塗りつぶし合戦が続き、体力でも劣る人間側には限界が近づいていた。
そんなある日、太陽を隠すほどの大きなUFOが突然現れて、地球上を真っ暗にした。
黒く塗りつぶす必要がなくなったので人間はほっとして、塗りつぶしていた場所で、そのまま、倒れるように、久しぶりにグッスリ眠りについた。
ところが、このUFO、影人間たちの星の物だったのだ。
地球上のすべてが真っ黒になっている間に、影人間たちは地球への侵入を始めた。
人間が眠っている間に、元々人間を乗っ取った影人間たちがUFOを誘導して自分の住んでいる家や会社に影人間を招待した。
そして、眠っている人間の上に覆いかぶさると影が映っているわけでもないのに影人間になってしまうんだよ。
UFOは再び空にあがり、太陽を隠したが、もう地球上には影人間しかいなくなってしまった。
太陽から隠れた地球は常に暗く、黒い影人間が動いていても見えることもなくなった。
ただ、時々、地球の動きにUFOが遅れたときなどは太陽の光で地球上で動く影人間を確認することができるのだった。
え?誰が確認するのかって?
宇宙船で仕事をしていた人間の生き残りだよ。
影人間は仕事は忘れないでしているから、そのうち宇宙船まで影人間が来る日があるのだろうって、ドキドキしながら地球の周りをまわっているんだ。
一番怖い思いをするのは最後に残った人間なんだろうなぁ。
いつの日かあの真っ黒になった地球から宇宙船に向かってくるロケットには影人間が乗っているのかな?
宇宙船に乗りながら地球と連絡を取ろうとするんだけど、影人間同士は話さなくても意思の疎通ができるらしくて、もう、地球には話せる人間は残っていないらしくて、返事がないんだ。
宇宙船まで影人間に乗っ取られたら、地球は地球じゃぁなくなるんだろうなぁ。
【了】
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