1. 膝の上は居心地がよいのか?

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1. 膝の上は居心地がよいのか?

机の左に置いてある段ボールの中には、小テストや授業で使ったプリント、それからテストの問題用紙などが3年間分溜まっている。なぜとっておいたのか?自分でもわからない。 母親にどうするのかと聞かれ、渋々床にドカッと座り、ゴミ袋を傍らに置いて処分している。 「なんでこんなもの取って置いたんだ?」思わず声が出た。 下にいけばいくほど、紙が水分を吸ったのだろう。若干湿っていた。 手に取って引っ張り出した紙は裏に文字がびっしり書いてある。不思議に思って最初の方を読んで思い出した。 ほんの一時、物語を書きたくなって授業中に渡されたプリントの裏に小説のようなものを書いた記憶がよみがえった。それを読んでみるとまったくおもしろくない。なんで、こんなことを書いたのか自分でもまったくわからなかった。 クシャっと丸めて袋に入れる。 その時、器用にドアの隙間に前足を入れてこじ開けるようにして、はるが入ってきた。 メスなんだが、不妊手術後めっきり太ってしまっている。予防接種で動物病院に連れて行ったときに、体重が8キロあると言われた。獣医の先生から「これ以上体重を増やさないように」と言われていた。2番目にうちにやってきた猫だ。 父は、はるのことを「親方」・「どすこい」などと呼んだりする。確かにそんな風格を醸し出してはいる…が、オレの愛猫に失礼ではないか?とイラっとしてしまうこともある。 のしのしとこちらにまっすぐ歩いてきて、すぐさま僕の膝に乗る。 その時の表情はまるで女子だ。上目遣いでこちらを見ながら寄ってくるものだから、つい気を許してしまう。そのかわいさと言ったら半端ない。だから勉強しているときでも漫画を読んでいるときでも邪魔だなと思ってしまうが、最終的にはホッとしている自分がいる。 膝の上に乗ってゴロゴロと喉を鳴らす、はる。 ずっと、疑問に思っていた。 猫は飼い主の膝の上や胡坐をかいたところに入り込んで座るが痛くないのだろうか? オレだったらあまり座り心地が良くないと感じる。なぜなら、子どもの頃に父が胡坐をかいているところに座ったことがあるが、長くは座っていられなかった。座り心地が良くなかったと記憶している。そう思っていたのにもかかわらず、何度も座りに行っては数分で立ち上がって違うところで遊んでいた。 はるを撫でながら、ふと思った。 もしかしたら、子どもの頃のオレは、居心地の良さというより安心を求めていたのではないだろうか?父から愛されているかを子どもなりに確認していたのではないかと思う。父が運動会を見に来てくれたことや、一緒にキャッチボールをしてくれた時、ただひたすらうれしかった。「がんばったな」って言いながら頭を撫でてくれるのも心が満たされていた気がする。 もしかしたら、猫にもそんなところがあるのではないか。飼い主の愛情が自分に向いているのかを確かめるためというか。 そこまで人間に近いような感情が猫にあるのかわからない。けれど、そうだといいなと思う。毎回、オレの部屋にやってきては膝の上に上がりたがるのはオレの愛情を確認しているのだと。 「はる、かわいいなぁ。お前はいい子だなぁ」 そう言って背中を撫でてやると、小さくニャーと声を出して気持ちよさそうに目を細めた。顎を上げて「のどの辺りを撫でてもいいわよ」とでも言わんばかりにしている。その姿がとても好きだ。 ただ、はるは本当に気まぐれ。少し撫でたらドスンと膝から降りて部屋を出て行ってしまった。それもドアを開けっぱなしのままで。
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