3.黒猫の不思議

1/1
前へ
/3ページ
次へ

3.黒猫の不思議

我が家に黒猫がやってきたのは、はるが1歳を過ぎてすぐのことだった。 父が会社関係の人の家で生まれた子猫をもらってくれないかと頼まれたのだ。写真を見せてもらうとものすごくかわいい子猫がちょこんと座っていた。レジーやはるとはまったく違うかわいさが漂っていた。「3匹も飼うとなるといろいろ大変になる」と母は言っていたが、一番うれしそうにしていたのは母だった。 3匹目を迎えるとなったその週の日曜日、両親が黒猫を引き取りに行った。 僕は受験勉強のためといって家で待っていたが、勉強どころではなかった。子猫が来てレジーやはるが受け入れるかどうか心配だった。 それにものすごく仲のいい2匹の関係がどうなるのかも気になっていた。 実家でたくさんの猫と暮らしてきた母は「大丈夫よ」と言っていたが、レジーとはるが受け入れるか不安でモヤモヤしていた。 しかし、その心配は不要だった。生後3か月の黒猫はあっという間に懐き、仲間に入れてもらっていた。最初こそ、「シャー!」と互いに威嚇し合っていたし、黒猫の方が夜になると遠吠えのような変な鳴き方をしていたが、次の日にはそれもなくなっていた。 小さくてこぢんまりとしたぬいぐるみのようなかわいい姿を見て、どんな名前がいいかとオレなりに考えていたら、母が「この子はテトって名前にするわ」という。どこからそんな発想になったのかよくわからないが、他の名前はすべて却下されてしまった。 テトについて、気になることが2つある。 1つは、いつも舌が出ていることだ。まるであっかんべーをしているような感じで舌が出ている。長く出ている時もあれば短い時もある。 「舌出てるよ!」と触るとすぐにすぐに引っ込むのだが、なぜ出ているのかはわからない。 成猫になった今でも舌は出し続けている。レジーもはるも舌を出したことはない。まったくもって不思議である。 母は、「甘えたいときとかに出てない?」と言っていた。だから観察してみることにした。確かに、撫でたり甘えてすり寄ってくるときに舌が出ていることが多いように感じる。ただ、寝ている時も少し舌を出しているので何とも言えないが…。 もう1つは、オレがうつ伏せになっていると背中に乗ってくること。居間でゲームやストレッチをしているとき、部屋で本を読んでいるときなどに、しれっと飛び乗ってきて、そのまま寝るのだ。 最初はこう箱座りをしているようなのだが、しばらくすると本格的に寝てしまうようで黒猫が落ちないように動きを止めておかねばならず、それが本当にきつい。 一度、寝ていると知らずに背中から転げ落ちたことがあったのだ。その時の妹の怒りようったらなかった。 「テトがケガでもしたらどうするの!お兄ちゃん気を付けてよ!」とテトを抱いて撫でながら怒鳴っていた。 そんなこんなで1年が過ぎ、すっかりうちの猫兄弟になった。 今でもテトはオレの背中で寝てしまう。他の家族にやっているところを見たことがない。なぜオレにだけ?と思っていたら、母が「背中の大きさや温かさ、それに心臓の鼓動がテトにとって心地いいんじゃない」という。 それなら父親の方が適任じゃないかと思う。元ラグビーの日本代表候補だった父の背中の方が絶対に広い。なのになぜオレの背中なのだろう。もしかしたら母が言うようにテトにとっての安心材料がそろっていたのかもしれない。 今日もまたオレの部屋に入ってきて、背中の上で寝ている。今は1歳半になり身体も大きくなった。それでもまだ、オレの背中に乗ってくる。 本も読み終わったがテトにとっての安心できる存在ならもう少し一緒にいてあげようと思う。 しかし、トイレに行きたい衝動は抑えられない。ギリギリまで我慢していた。身体を動かしてしまったせいか、テトは目を覚まし背中から降りた。ここぞとばかりにトイレに行ってから部屋に戻ってくると、ベッドの上で寝ていたテトが「ニャー」とオレに向かって鳴いた。 それも数回続けてだ。「もしかして」と思い、うつ伏せに横になるとベッドからジャンプしてオレの背中に飛び移ってきた。爪を出して着地するから背中は痛いし、5キロもあるからそれなりの重さだ。いつまでも子猫だと思っていたら自分の身が持たない。 黒猫だからこんななのか、テトだからなのか。そこを考えたらきりがないのはわかっている。でも、ついつい「なんで?」と思ってしまう。 それでもオレの背中を欲してくれるテト、甘え鳴きしながら舌が出ているテトがかわいくて仕方ない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加