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いつもと変わらず、公爵令息にふさわしい絢爛豪華な衣装をまとっている。膝丈まであるフロックコートは緻密な刺繍がされた最高級の生地だし、コートからのぞく襟なしベストも凝った意匠が施されている。
澄んだ青空のような天色の髪は涼しげで、首回りに巻きつけるクラヴァットがふわりと広がる。切れ長の双眸は落ち着いたダークブラウンに染められ、目が合った令嬢たちは頬を染めて言葉を失ってしまう、というのが巷の評価らしい。
(まあ、わたくし個人の評価では、可もなく不可もなしといったところだけど)
なぜならイザベルたちは、幼いときに親同士が決めた形式だけの婚約者だからだ。そこに恋や愛などといった感情は存在しない。空気のように横にいるだけの、あっさりとした付き合いなのだから。
とはいえ、令嬢たるもの、婚約者として恥じないようにしなければならない。与えられた役割ぐらいこなさなくては、エルライン伯爵家の家名にも泥を塗ってしまう。
いつものように目線を少し落として、憂いの令嬢を装う。笑顔は慎ましく、気品を忘れずに。
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