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「ええ。日差しも穏やかですから平気ですわ。それに日傘があると、この素晴らしい薔薇の香りをかぐことは難しいですから」
今日は公爵家が主催する薔薇の園遊会だ。公爵家自慢の薔薇園は、華やかな薔薇が誇らしげに出迎えてくれ、人目をはばかって嘆いているだけだったイザベルの心もいくぶん和らいでいた。
「君は本当に我が家の薔薇が好きだな」
「もちろん! 何度見ても飽きませんわ」
「そうか。だったら、これを受け取ってほしい」
差し出されたのは、燃えるように真っ赤な薔薇が一輪。怪我をしないよう、棘はすべて取り除かれ、茎の中心には桃色のリボンが結ばれていた。
「まあ! 見事な大輪ですわね。ありがとうございます」
さりげないプレゼントに胸をときめかせていると、ジークフリートを呼ぶ声が聞こえてきた。声の方向に振り返ると、そこには複数の女性の姿があった。
公爵家主催ということもあり、園遊会には貴族の令嬢も多く招待されている。
「イザベル、すまない。他の客人の相手もあるので、これで失礼する」
「ええ、どうぞ。わたくしのことはお気になさらず」
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