1. 運命の歯車はもう止められない

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 ジークフリートは名残惜しそうに背を向け、令嬢たちの元へ足を向ける。微笑んで婚約者を見送り、改めて薔薇を見下ろす。  薔薇は国王が住まう宮殿でも愛用され、とくに今の主流は剣弁高芯咲きの品種だ。  高芯咲きは花芯が高く、中央部は花芯を包みこむように咲くため、見栄えが美しいと貴族たちがこぞって庭園に植えている。蕾から花びらが一枚ずつ降りて開く様子も人気の理由のひとつ。  そして剣弁咲きは、花びらの先が裏側に反り返り、先端が尖っている。一方、半剣弁咲きは剣弁よりは鋭さが控えめになり、やや丸みを帯びたのが特徴だ。  ジークフリートが贈ってくれたのは半剣弁高芯咲きなので、全体的にやわらかな印象だ。フルーティーな香りが強い品種なので、顔を近づけなくても薔薇の香りが立つ。 (はあ……いい匂い)  香水もいいが、直接嗅ぐ花の香りは癒やされる。個人的には、このプレゼントだけで十分だ。  彼は婚約者としての義務感からか、この一輪の薔薇のように、ささやかなプレゼントをよく贈ってくれる。仰々しいものではないので断るのも気が引け、いつも受け取ってしまうのだが、今日はいいものをもらった。
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