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(でも、「白薔薇の貴公子」が赤い薔薇を贈るのは変な感じね)
彼が学園内で呼ばれている愛称は、白薔薇の貴公子だ。もちろん、本人の前で呼ぶわけではなく、女生徒の間でのみ使われる略称だ。もっとも命名した彼女たちは崇拝の気持ちをこめて呼んでいるようだが。
受け取った薔薇を両手で持ち直し、本来の目的である薔薇の鑑賞にいそしむ。ひとつひとつの咲き誇る様子を見ながら、広い薔薇園を歩く。
見事な薔薇のアーチの前でうっとりしていると、すぐ横に大きな影ができた。
「アーチ状にするのは難しいと聞いたことがありますが、いや、こちらの薔薇は見ごたえがありますね」
男の声は独り言のような口調だったが、ここは話しかけられたと考える方が自然だ。
ため息を押し殺して一瞥すると、長身の紳士がいた。
(……厄介な人につかまってしまったわね)
舞台映えしそうな高い身長に整った顔、そして淑女の心をつかんで離さない藍色の瞳。男性慣れしていない未婚の女性をはじめ、既婚女性さえも、あっさりと籠絡してしまうと噂の伯爵だ。
耳元でささやく声はとびきり甘く、腰砕けになる女性は数知れず。
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