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彼はいつも複数の女性に囲まれているはずだが、一人でいるなんて珍しい日もあるものだ。
「……まあ。ライドリーク伯爵、あなたも招待されていたのですか?」
「つれないですね。あなたと私の関係ではありませんか。どうぞ、ルーウェンとお呼びください」
「いえ、とくに関係はございませんが」
きっぱり否定すると、ライドリーク伯爵は満足そうに口角をつりあげた。
「そういうところが新鮮で、ますます興味を惹かれますね。どうです? 二歳年上の婚約者殿より、六歳年上の私に乗り換えてみませんか。ロマンチックな恋をお約束しますよ」
「数々の浮き世の名を流す伯爵とはつりあいませんもの。謹んでお断りしますわ」
「本当につれないお人だ」
肩をすくめて笑う顔は、こうなることを見越していたような余裕がうかがえた。
美青年と称されるだけあって、赤銅色の前髪を横に払う仕草でさえ、うっかりすると見とれてしまう。とはいえ、無駄にキラキラしているところが、どうも苦手だ。
(紫の薔薇で淑女を口説くことで有名な「紫薔薇の伯爵」の相手なんて、頼まれてもお断りよ。……ああもう、ジェシカが一緒だったらよかったのに)
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