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 何回もクラブバタフライに通い詰めていたある日。突如として店に乾いた発砲音が響く。咄嗟に和都田を庇いソファとテーブルの間に僕は立つ。和都田を伏せさせようとしたが間に合わない。敵の狙いは和都田のようだ。合板のテーブルを立てて盾にして銃撃を防ぐ。数人の男によって蹴り倒されたテーブル。 「先生、私のせいだから。行くから離して」 テーブルの下から這い出てこようとする和都田を僕は力ずくで止める。 「澪、てめえやりやがったな!出てこい!」 チンピラ風情の兄貴分らしき男が叫ぶ。仲間がテーブルをひっくり返す。僕らは無防備でもう守る盾もない。 「オラ、どけや。お前も一緒に始末するぞ!」 兄貴分は僕と和都田を引き離そうとする。伸ばしてきた腕の間から足元にタックルをかまして兄貴分の足を取りに行く。無我夢中で兄貴分をねじ伏せにかかる僕は周りが見えていなかった。仲間が僕に向かって発砲する気配がする。転がるように飛び退いたその瞬間、和都田の白いロングドレスが鮮血に染まった。血の雨が降り注ぐ。和都田の死体を担いで去ろうとする暴漢達。転がっていたウィスキーのボトルをテーブルの角で割り、僕は男の一人の背中に向けて突き刺した。いや、突き刺そうとしたその刹那、僕は兄貴分の銃で撃たれた。息をしたいのに、口から血が溢れる。眩暈がする。痛みは痺れるような雷のように全身を貫く。崩れ落ちるように床に倒れると兄貴分の捨て台詞が聞こえた。 「川久保さんの金をちょろまかした女を庇うなんて向こう水な野郎だぜ」 兄貴分の靴が撃ち抜かれた僕の心臓のすぐ近くの脇腹を忌々しげに蹴る。血の雨はやっと止んだ。最後の最期に見えたのは、和都田の白いロングドレスの胸元に刻まれた黒地に虹色の模様が入ったアゲハ蝶のタトゥーだった。蝶は赤く染まり血の雨が降りしきる野原で羽を休めていた。雨が上がったらきっとまた飛べる。  きっと二人は一緒に飛べる。  きっと二人は虹の彼方まで飛べる。  いつか、いやいつも二人で生きていける。  和都田、いや美波、愛してる。 薄れゆく意識の中で彼女の蝶に僕は必死で手を伸ばした。指先が七色の羽に触れた瞬間、既に事切れていた彼女の瞳が僕に告げた。 (私も愛してるよ、先生)  血の涙を流したまま優しい微笑みを浮かべた彼女を見て、僕はやっと生きる意味を見つけた。愛する者を守ること、それが生きる意味。死の訪れが生の意味を教えてくれた。二人で行こう、雨上がりの虹の彼方へ、争いのない新しい世界へ。 (END1 了)
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