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何回もクラブバタフライに通い詰めていたある日。突如として店に乾いた発砲音が響く。咄嗟に和都田を庇いソファとテーブルの間に僕は立つ。和都田を伏せさせようとしたが間に合わない。敵の狙いは和都田のようだ。合板のテーブルを立てて盾にして銃撃を防ぐ。数人の男によって蹴り倒されたテーブル。 「先生、私のせいだから。行くから離して」 テーブルの下から這い出てこようとする和都田を僕は力ずくで止める。 「澪、てめえやりやがったな!出てこい!」 チンピラ風情の兄貴分らしき男が叫ぶ。仲間がテーブルをひっくり返す。僕らは無防備でもう守る盾もない。 「オラ、どけや。お前も一緒に始末するぞ!」 兄貴分は僕と和都田を引き離そうとする。伸ばしてきた腕の間から足元にタックルをかまして兄貴分の足を取りに行く。無我夢中で兄貴分をねじ伏せにかかる僕は周りが見えていなかった。仲間が僕に向かって発砲する気配がする。転がるように飛び退いたその瞬間、川久保の怒声が響く。 「馬鹿野郎!その男は金づるだぞ」 川久保の一言で静まる男達。川久保は和都田にレーザー銃の照準を合わせたまま不気味に笑う。 「葉山センセー聞いてくださいよ。こいつ、オレが目を掛けてやったのに500万全額使い込みしましてね。取り分は2割だと言ったのに。センセーが全額弁償してこの店の修理代としてあと500積むなら澪の命、助けてもいいですよ」 澪こと和都田は泣きじゃくる。 「もう終わりにしたいの、何もかも。助けないでお願いだから。死にたいの、私は」 僕は若頭の川久保より上の三毛田組長に葉山家は顔がきくことを思い出した。 「川久保さん。忘れて貰っては困りますね。ウチは三毛田さんと顔馴染みです。使い込みの500は払いますが修理代はそちらで。ここはあなたのシマでしょう?シマで子分を暴れさせていたと三毛田さんにお伝えしましょうか」 川久保は、レーザー銃をジャケットの内ポケットに仕舞い舌打ちした。 「仕方ない、それで手打ちとしましょう」 川久保と子分達が去っていった。和都田は店の外までいつものように見送ってくれた。クラッチバッグの中からチェーンはプラチナでモチーフは深紅のルビーで出来た薔薇の首飾りを取り出して、首に掛けた。和都田の虹色の蝶は一輪の薔薇から飛び立つように艶かしく揺らめいていた。 「これを身につけて死にたかったの」 彼女の溢した涙からは嘘の香りが漂っていた。タトゥーのアゲハ蝶は生き生きと彼女の白い肌の空を羽ばたいていた。 「死ぬのはまだ早い。数学、物理、哲学。まだ高校1年までしか教えてない」 「先生は本当に変わったお客さん。いつか私を捕まえてみて。捕まえられるものなら」 夜の小雨が止んだ。極彩色のネオンには蛾が群がっていた。彼女が胸元で飼っているのは蝶ではなく金を食む蛾かもしれない。騙されてもいい、全てを失ってもいい。僕は彼女を抱き寄せて囁いた。 「愛してる…」 「私も。愛してる、ずっと」 蝶なのか蛾なのか。彼女の虹色のアゲハ蝶は蟻地獄のように口を大きく開いて僕を待ち構えていた。僕は雨上がりに愛に墜ちて溺れた。 (END2 了)
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