傷だらけのチッチ

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 春の緑は多彩だ。  濃淡さまざまにまだ芽吹きを待つ枝々の、その隙間がより陽光を複雑に映しながら、穏やかな風に揺れる。  初夏にはそれらは一斉に葉を開き、その隙間を埋める。  しかし、白や紫のマメ科の花やら、あかい実、あおい実の丸みを帯びた重たそうな質感が、これまた目を楽しませてくれる。  風は少し強く、そのなかであちこちに揺れている。  盛夏。  いよいよ似たような緑一色に染まった山は、目を凝らさないとその差異を認め難いくらいに、同じに見える。  近づいてよく見ると、強い日差しに焼かれ、枯れた白かった花、あおかった葉。  それらが少しくすんだ緑の中に。  僕らは緑を楽しむ事を諦め、より遠景にコントラストを探す。  青い空に、白い雲、そして緑の山。  毎年この時期になると、僕はチッチに会いに行く。  森の中。  虻が飛び交い、高温多湿を極めた不快そのものなそこに、彼女は僕を待っている。  いや、僕を待ってるわけではないのかもしれない。  それでも僕は会いにいく。  会わなきゃ、いけない。  彼女はこの時期から秋の終わり頃までそこに居る。  正確には、僕の行くところに顔を出す。  けれど僕が彼女を狂おしく求め、さまざまな不都合を圧して求めるのは、この時期だけだ。  求められるから、求める。  恋とはそういうものではなかろうか?  そして、みんなにそれぞれ都合がある。  僕は秋の間忙しいのである。
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