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彼女は元気そうだった。
彼女を認め、眺めてるうちは。
1年ぶりの再会に記念撮影。
満面の笑顔を向けてくれた。
しかし僕が彼女に触れるや否や、例の傷つきやすい性質を押し付けてくる。
触れただけで血を流してしまうかもしれない。
それくらい彼女を扱うには慎重さを強いられる。
ああチッチ、僕だよ、会いに来たよ。
何を言っても、何をしても、彼女は傷ついてしまう。
そしてその彼女を傷付けた証は、粘液質にべっとりと僕の指に絡みつき、それは日に当たると乾いて嫌なにおいを出す。
それを知ってるから、わざわざ会いに来る。
今日もダメだった。
傷付けた理由はわからないけど、ともかくチッチを傷付けた証拠は僕の指にまとわりついて、沢でどんなに手を洗っても落ちない。
僕は日陰を選んで歩き、彼女からあの嫌な匂いがしないように気を配りながら、車に乗り部屋へ連れて帰る。
黙りこくっている彼女を側らに、僕は考える。
僕は秋にはたくさんの人に会わなければならず、彼女を疎遠にしていく。
こんなに構う余裕がないのだ。
でも、彼女だけが特別変わってるんだろうか?
みんな教えてくれないだけで、おんなじ様に傷ついてはいないだろうか?
ともあれ僕は、またこの時期にした熱烈な恋を遠ざけて、世間に戻っていく。
世の中に君しか居ないのなら。
もしも、そうだったら。
しかしそれはただの夢で、世の中はきみやぼくみたいな人だけで出来上がってはいない。
きっと僕はまた君を忘れ、あそこへ帰って行く。
再び、この不快な季節が巡り来るまで。
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