壱書:黄宝館の金鶏

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(Side:ヒスイ)積年の思い 警戒心が薄く、無防備で従順な加護の中の鳥。外がどれほど危険かわかっていないから、いつも自由を夢見て、どこか遠くに思いを巡らせている。 だから無理矢理にでも意識を向けさせたくなる。 キミが見るのはこっちだよと、教えてあげたくなる。 「……ゃ、ぁ……ヒスイさ、ま」 ボクのものを深く埋め込んだ身体は、無抵抗に犯されるしかなく、事実、アザミちゃんはボクの指先が突起物を摘まむだけで可愛い声をあげて鳴いていた。 「アザミちゃん、なんていうの?」 「く……ぃ、く……ヒスイ様ぁ、ァッ、いくぅゥ」 言われた通りに両手を後ろでついて、ボクにまたがったままの腰を前後にゆすりながら、アザミちゃんは身体を大きくのけぞらせる。可愛い乳首がつんと上を向いているから、そこを指ではじいて、摘まんで伸ばせば、「やだやだ」と首を振って弱々しく戻ってくる。 「ぅ……ぁ…乳首……いやぁ」 「硬くなってるの見せつけてたくせに、こうしてこねてほしかったんじゃないの?」 「ちがっ、ぅ……違いましゅ、ぅ」 幾度となく絶頂を味わって、自分でうまく姿勢を調整できないのだろう。アザミちゃんはバカの一つ覚えみたいに最初に支持された姿勢を保って、着崩れた服のままボクに遊ばれている。 「ああ、アザミちゃんはこっちの方が好きなんだっけ?」 「ヤッぁ、そこ……も、触っちゃ……やらぁッァぁ」 「どうして。すぐいっちゃうから?」 「ぁ、ァッ……ぃ、いきゅ……そ、りぇ、キモチぃ…ぃ゛」 「うんうん、そうだねぇ。ほら頑張って、腰を落として、自分ばっかり気持ちよくなってちゃダメでしょ?」 陰核を指でしごくたびに、アザミちゃんは腰を浮かせて逃げようとする。 よほど気持ちいいのか、ぬるぬるとした愛液は密着している場所で糸を引くほど溢れているから、それを指ですくって塗りつけるなんて造作もない。 ボクは誰にも邪魔されない特等席で、アザミちゃんが悶える様子を観察するだけ。 はふはふと上手く続かない息を必死に繰り返して、とろんと溶けた顔で恨めしそうに見てくる姿は、ボクの加虐心を大いに煽ってくる。 「ヒスイ様、ヒスイさまぁ」 「んー、なぁに?」 必死で名前を呼んでくる姿に微笑んであげれば、アザミちゃんは泣きそうな顔でよだれをたらす。民衆から愛された花魁。アザミちゃんは自覚していないけど、儚い美人ともいえる愛らしさは庇護欲をそそり、そこにいるだけで周囲の目を引き付ける華やかさは羨望を植え付ける。 男はみな、誰もが一度は抱いてみたいと口をそろえ、女はみな、誰もがああいう風に生まれたいと噂する。そんな女が、自我を保てないほど快楽に弱いなんて知ったら、みんなはどんな顔をするだろう。 そうできる権利があり、実際そうさせているのが自分であるという愉悦がこの加虐心を満たすのかもしれない。 「あらら、アザミちゃん。勝手にいっちゃった?」 小さなうめき声を殺して、ビクビクと身体を震わせる様子にボクは苦笑する。陰核が尖るほど勃起して触りやすいせいで、ついつい加減なく攻め立てていたらしい。 「おっと……アザミちゃん、おーい……アザミちゃん?」 ぐにゃりと力を無くして、そのまま後ろに倒れこもうとするアザミちゃんを慌てて引き寄せる。ボクの息子をぎゅうぎゅうと締め付けていた膣圧がゆるんでいるのに、ひくひくと肩が痙攣している。 「こんなので気絶しちゃうの?」 可愛い。たった数回、刺激を与えただけで気をやってしまうほどの体力のなさが初々しくて、込み上げてくる衝動を抑えきれなくなる。 そのとき、服の隙間からちらりと見えた肌に、ボクは無意識に舌打ちをしていた。 「あー、ほんと腹立つ。コウラくん、どんだけ独占欲強いの。見せつけるみたいに残すだけならまだしも、全身花びらに埋もれたみたいに痕残すとか、怖すぎない?」 ねぇと同意を求めてみたのに、アザミちゃんはまだ気を失ったままらしい。 一週間刻み続けられたとしか思えない。消えないほどの痕。 薄れた部分に上書きして、何度も重ねて、消えないように全身を埋めていく執着心を思えば、その行為の激しさもおのずと想像がつく。 「やだねぇ、余裕のない男は嫌いだって言ってやりな」 おかげでボクはアザミちゃんの服を脱がすことすらできやしない。 いや、脱がせてもいいけど、それこそ歯止めが利かなくなる。他の男に抱かれた痕に平常心でいられる方法があるなら、ご教授願いたいね。まったく。 「アザミちゃんが手に入る日を待ち望んでいたのはコウラくんだけじゃないんだよ」 そう。コウラくんがあの日、仕掛けなければ、ボクがきっと仕掛けていた。 ジンくんが手をつければ、四獣が花魁と交わりを持つことが許される。先帝と違い、ジンくんは四獣が手を出すことを禁止していない。むしろ、積極的に奪って構わないという意向さえみせていた。 まあ、実際にアザミちゃんと交流して、その考えが変わりつつあるみたいだけど、ボクたちは全員見ないふりをしている。そりゃそうだよ。そっちの方が都合いいからね。 アザミちゃんを欲していたのはコウラくんだけじゃない。 ボクだって、ずっとこの日を待ち望んでいた。 「アザミちゃん、起きなくていいの。眠っている間に、ボクの形を覚えさせちゃうよ?」 「っ……ぅ……ん」 アザミちゃんを少し持ち上げて、ひっくり返す。 座るボクの膝の間に埋まるアザミちゃん。見下ろした先でくたりと崩れる体を抱きしめて、ボクはいろんな場所を撫でまわすことにする。 「こうしていると、本を読み聞かせてあげていたころを思い出すなぁ」 九年前、ボクたち四獣は初めてアザミちゃんと対面した。 コウラくんは先駆けて顔見知りだったようだけど、それは特例で、花魁といえど基本は他の妓女と同じように段階を踏むことになっている。四歳で黄宝館に匿われたアザミちゃんは、遊郭いちと言われる厳しい修行をし、十五歳になってようやく四獣との顔合わせとなった。 ボクは当時十八歳でそれなりに遊び盛りもあって、四獣としての役目をこなしつつも、「花魁なんて他の女と同じでしょ」くらいにしか思っていなかった。 ジンくんは参加せず、ボクを含む四獣と他の四つの遊郭からそれぞれの香妃が参加するだけの顔合わせ。この世の才色兼備を集めたような場所なんて、何度も出入りしているのだから期待もしなかった。なんなら、早く帰りたいなぁと思っていた。 それなのに静かに開かれた襖の先、黒髪を丁寧に結い上げて五色をまとった少女を見た瞬間、ボクの意識は奪われた。 「アザミと申しんす」 その声が少し震えて、緊張しているのだということが如実に伝わってくる。 きょろきょろと視線を泳がせて、ジンくんがいないことに気づいた顔は落ち込んだように見えたが、コウラくんを見つけて花を咲かせたように笑った。 取り繕えない初々しさに胸が痛んで、一挙手一投足を眺めていた。 「えっと……あの、ひ、ヒスイ様」 よろしくお願いしますと、目の前にあいさつに来た顔が赤く染まって、照れたように指先を遊ばせる。 「アザミ様。こちらこそ、よろしくお願い致します」 一応、四獣らしく、年上の男として余裕を見せようと微笑むのはいつもの癖でもある。人当たりの良い仕草は心得ている。賢帝として、国の繁栄を指揮する参謀を担う以上、人の懐に入る術はボクも幼少期から叩き込まれてきた。 それなのに、アザミちゃんはぽかんとした顔のあと、「ヒスイ様の声は心地よく響きんすなぁ」と笑ったのだからたまらない。 「なに、あの可愛いイキモノ」 顔合わせのあと、興奮冷めやらないボクに対して「当然だろう」とコウラくんは始終不機嫌だった。ジンくんは報告しても右から左で、「処女を奪っていいですよ」と公認になる十七歳のお披露目にも参加しなかった。 その頃にはボクの興味は完全にアザミちゃんに移っていて、新しい本をもってはアザミちゃんのもとへ通っていた。膝にのせて、本を読む。静かにボクの声を聞いて、ころころと変わる表情が見たくて、珍しい書籍を国中から取り寄せた。 「アザミちゃんは、本当に可愛いねぇ」 「ヒスイ様、わっちはもう十七でありんすよ?」 「年齢なんて関係ないよ。ほら、おいで。今日も本を読んであげよう」 「子ども扱いされる年齢ではありんせん」 反抗的なアザミちゃんに「どうかした?」と問いかける。別にこうした態度ははじめてではない。年頃の女の子の機嫌なんて天気のように不安定なもの。 「姐さんに笑われんした」 「じゃあ、笑われなくていいことしようか?」 ふわりと抱きしめて、ゆっくりと身体を撫でまわす。アザミちゃんは驚いて硬直していたけど、次第に身体の力を抜いて好奇心の先を見つめていた。 何度か続けていくうちに、アザミちゃんもこの行為が意味する先を理解し始める。頭でわかっていても、現実に疎いところがアザミちゃんらしい。それでもボクは四獣。ボクはアザミちゃんが姐さんに笑われない程度に遊んで、本を読むという曖昧さを楽しむだけ。 何も知らないアザミちゃんが可愛いと思う。 穢れを知らず、純真無垢なアザミちゃんを自分の手で滅茶苦茶にしたいと思う。 随分と身勝手で歪んでいるなと自虐的な笑みをこぼして、そろそろ戯れも終わりにしようと、いつもみたいに抱きしめていた手を放し、本を読もうかと告げるところで、なぜか「好きだ」と口にしていた。 「……ヒスイ、様?」 困惑したアザミちゃんの声に自覚する。 ああ、ボクはアザミちゃんが好きだったのかと自覚した途端、これまでの自分の言動、行動、態度を思い返して変な恥ずかしさに襲われる。 次はどんな顔をして会えばいいのか途端にわからなくなって、それから足が遠のいている間に、監視室というものが出来て、ボクたちの交流は極端に減っていった。 だけど、もう関係ない。 アザミちゃんが花魁であり、ボクが四獣である限り、ボクたちの関係は歪み続ける。 かつて青龍がそうしたように、ボクも天女をこの腕の中に閉じ込め続けるのだろう。
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