肆書:邪獣襲来

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07:傷を癒す交際 雨が降っている。窓を打ち付けるほどではないにしても、傘を差してたところで濡れてしまうだろう降水量が夜の黄宝館を濡らしている。 「……ッ……ぅ」 遠くに響く雷鳴を敏感に受け取ったアザミが、身体をびくりと震わせたのは気のせいではない。イルハが悪戯に与えてきた雷電の威力は身体に刻まれ、イヤでも絶頂の神経が引き起こされる。 「アザミちゃん、逃げないよ」 じゅるっと卑猥な音がして、吸われた陰核の刺激にアザミは腰を跳ね上げる。 逃げたくても逃げられない。そもそも逃がす気があるとは思えない。 先ほどから舌で陰核を執拗に舐めていたかと思えば、ヒスイは溢れる愛蜜をすべて飲み干し、アザミの腰を抱えて離さない。 もうどれほどたつのか。 「ねぇ、今のは雷の音でイったの。それともボクに舐められてイッたの?」 目隠しをされ、帯で両腕と胴体を巻きつける形で縛られているが、誰に舐められているのかは知っている。 あぐらをかいて座るヒスイの肩に足をかけ、腰を抱え込まれて数刻。そろそろ頭に血が上って思考が低迷してくるはずなのに、時間が経過すればするほど、アザミの身体は従順に快楽を受け入れていた。 「コウラくんとイルハくんと、随分楽しそうにしていたものね」 「ぁ゛……だ、め……ぇ」 「逃げないって言ってるのに、聞き分けのない子はお仕置きだよ」 「ヒスイさ、まぁ゛……ッん…む……ン゛んっ」 上下に腰を振ってしまうせいで、舌が安定して届かない位置までアザミの重力が下がったのをいいことに、ヒスイはアザミの身体を寝かせると、身体を反転させて覆いかぶさる。 その際に、自身の雄をアザミの口に突っ込んだせいで、アザミの声は完全にふさがれていた。 「さてさて、ボク以外に可愛がられたんだ。今度は満足するまでボクが可愛がる番だって、わかってるでしょ?」 「ん゛ぅ……ン、んっ………」 「玩具も魔那もない、純粋な愛撫しかしないって約束してるんだから。アザミちゃんも逃げないっていう約束、ちゃんと守りなよ」 アザミの足を脇の下に抱え込んで、臀部まで丸っと性器だけになったアザミのそこにヒスイの顔は埋まっていく。当然、アザミの腰はまた上下に揺れ動いたが、ヒスイは問題ないと言わんばかりに手で割り広げて、その味を堪能していた。 「新月の夜だ、楽しもう」 喉をしめて絶頂を告げるアザミの膣に指を挿入し、溢れる蜜ごとヒスイは舐めとる。 目隠しをされたアザミは知らないが、全裸になったヒスイの腕や足には鱗のような模様が浮かび上がり、それは痛々しそうな傷となってヒスイを苦しめていた。 先祖返り。 四獣の加護を受けたものとして、第壱帝国では神童と崇められる症例だが、第弐本帝国では症例事態がない。伝説級の症例として今はおとぎ話にもならないのに、当の本人は新月のたびに浮き上がる龍の鱗に全身を切り裂かれるような苦痛を感じている。 治療法はない。 ところが、ヒスイはその治療法をすでに会得していた。 「はい、交代交代。新月の夜はボクの独り占めにするっていったの忘れちゃった?」 川の字になってもつれあっていたアザミたちの元に、ヒスイが現れたのは提灯が列をなして街を明るく照らし始めたころ。 イルハとコウラの中央で、どろどろに溶けたアザミを見るなり「はぁ」と盛大な溜息を吐いていたヒスイだったが、すぐにそこから助け出して湯桶に放り込んだのはいうまでもない。 「俺がやろう」 湯桶に手を突っ込んだ顔が満足そうに微笑んでいるのは「コウラ」となぜか呼び捨てにするアザミにあるのだろうと、すぐに察する。 イルハは、ニガナを呼び寄せ、寝台や食事について何か述べていたのか。ヒスイとコウラがアザミを洗って戻るころには、そこは四人分の食事が並び、寝台は清潔に整えられていた。 「アザミ、ニガナどうした?」 「…………ぅ?」 「ダメだな。こりゃ」 なぜか嬉しそうに笑うイルハが手酌で酒を注いでいる。それを横目にヒスイとコウラもアザミを座らせ、四人の食事会が開催された。 「アザミちゃん、ほら口開けて」 「ん……ぅ」 「ご飯を食べないと、体力が持たないよ?」 ぽやぽやとした顔で、アザミはヒスイから与えられる食事を消費していく。 目の前ではイルハが酒を飲んでいたが、しばらく自分の手のひらをじっと眺めて、それからアザミを見てまた手のひらを眺める。 「イルハくん。アザミちゃんに魔那使った?」 「アザミが悪りぃ」 「コウラくんも、止めなよ。どうりで、アザミちゃんが赤ちゃんみたいになってるわけだ」 されるがままのアザミに合点がいったと、ヒスイは何度目かの息を吐き出す。 コウラは、ヒスイが与える食事を横目にアザミに飲み物を与え、口からこぼれたものを布で丁寧にふいていた。 「アベニくんもだけど、コウラくんも世話焼きだよね」 「てめぇが言うのかよ」 「ボクはただ可愛がってるだけで、世話を焼いているのとはちょっと違うかな」 イルハの挑発にものらず、ヒスイは穏やかに会話を続ける。のらりくらりと時間が経過するうち、アザミの意識が理性を取り戻し始めたのか、ゆっくりと目覚めたばかりの顔で「あれ、ヒスイ様?」と首をかしげた。 「ただいま、アザミちゃん。イルハくんに魔那を当てられたそうだけど、身体は大丈夫?」 ほほを撫でられて、アザミはすり寄りながら目を閉じる。大きなヒスイの手はどこか安心するのだろう。今にも寝落ちそうな雰囲気が、それを物語っている。 「えーと、ほら。なんだっけ。眠るアザミちゃんに無体を強いたとかって、ボクは怒られた記憶があるんだけど、気のせいかな?」 「さて、と。邪獣狩りでもしてくるかな」 「領地の仕事を適度に片づけたら、またすぐに来る」 イルハとコウラが口づけを落として、室内から消えたことにもアザミは気づかない。 どれほど愛されたのかは想像がつくだけに、ヒスイも人のことはいえないと、アザミの額に口づけを落として寝台に運んでいた。 「……ッ、ぁ」 アザミが目覚めた時、すでに目隠しをされ、両腕を体の横にぴったりとつけた状態で帯で縛られ、あぐらをかいたヒスイに腰を持ち上げられていた。微弱な絶頂がずっと続いているのか、身体がほてって仕方がない。それでも、最初に浮かんだ疑問のほうが大きかったらしく、アザミは混乱して抵抗した。 「ヤッ…な、に……っ、ぁ……」 「大丈夫、大丈夫。ボクだよ、アザミちゃん」 「ヒスイ、様?」 「そう、じっとして。玩具も使わないし、魔那も使わない。約束するよ」 「ぁ…ッ……でも……ァッ」 「気持ちいいのが続くだけ。新月の夜は、いつもそうでしょ?」 言われて、今日が新月だと理解する。 理解したところで、新月の夜はいつも目隠しをされ、無防備に舐められ続けていたかと聞かれると、はっきり「そうだ」と答えられない。ヒスイが愛撫に時間をかけるのはいつものことで、新月など関係ないというほうが正直な感想。 「これ……どうし…っ…て」 「どうしてって、こうでもしないと逃げるかと思って」 「逃げ…ッぁ……アッ、ぁ」 視覚が遮断されると、過敏になった感覚が、他から情報を得ようと研ぎ澄まされていく。聴覚、嗅覚、味覚、触覚。残された感覚は、ヒスイの声を拾い、ヒスイの匂いにうもれ、ヒスイのオスを味わい、ヒスイの体温を感じていく。 「………ん゛…ぅ……」 そうして今に至る。 唇をこじ開けて、のどの奥までゆっくりと挿入されたヒスイの陰茎が気道を圧迫してくる。 苦しい。鼻で呼吸をうながしても、酸素を体内に送る気道はひとつしかない。 「ふ…ッ……ぅ……んン゛」 意識がもうろうとしてきても、口が閉じないのをいいことに、ヒスイは腰を強く押し込んでくる。のどの奥が定期的にしまるのは、花園に埋まるヒスイの口と指が休まずに動き続けているせい。 苦しいのに、キモチイイ。 気持ちいいのに、苦しい。 外は雨が降っていて、時々遠くで雷鳴がして、それなのに室内の方がよほど降水量の多い雨に打たれているみたいに濡れていく。 「……ぁ゛…ッごほ……ぅ……ァッひ、あ゛ァッ」 ヒスイが口から抜けて、二酸化炭素を吐き出した身体は、咳きこむと同時に深い絶頂に犯されてのけぞっていた。 「ヒスイさ、ま……ッ、ヒスイさ…まぁ゛」 目隠しを取りたい。帯で縛られた両腕がもどかしい。 膝を立てて快楽を逃す腰が浮いている。それでも、追いかけてくるヒスイの唇や指からは逃げられない。 「ボクはまだ満足していないよ」 「ッ……ぁ……」 「そんなに暴れるなら足も不自由にしちゃおうか」 片手で簡単に押さえつけられて、アザミは呆気なく寝台にとどまる。 どこかから帯を取り出す音がして、そろえられた両足がぐるぐると一本にまとめられていくのがわかる。 「ゃ…ァッ……ヒスイさま……ゃ、め」 「天女っていうより人魚みたいだね」 結局、二本の帯が追加されて、太もも、ふくらはぎが縛られた。 腕は胴体の横に引っ付いたまま。手首を前後に動かしてみても、触れるのは自分の腰と敷物だけで巻物は緩んでくれない。 「可愛い。このまま閉じ込めてしまいたいよ」 「んっ……ぅ……」 口づけを落としてくるヒスイの顔は見えない。わかるのは息遣いと声だけで、熱のこもった興奮をやどしている気配が伝わってくる。 「新月の夜なんて来なければいいと思っていたけど、今はとても待ち遠しい」 「……ぁ……ッふ……ぅ」 「天女がいなければ生きていけない。天女にそう思わせるために、龍は自分の身体に呪いをかけた」 「ヒスイ様…っ……ンッ……ん」 「ボクもそうだっていったら、アザミちゃんは素直に食べられてくれるかな」 口づけが止まって、足が持ち上げられていく。 ヒスイが人魚と揶揄したように、開くことのできない体は膝だけを折り曲げて、アザミの身体を封じてくる。 「ゃ……ァッ……ん」 大きなヒスイの手は簡単に足を持ち上げて、片手でアザミの足を支えるなり、もう片方の手で無防備な膣に指を埋めていた。元から濡れているそこに、指は二本も三本も変わらず埋まって、自然と割れたそこにまた、ヒスイは口づけを落としていく。 「これは治療だ。アザミちゃんにしか、ボクは癒せないんだよ」 分厚い舌の先端が敏感な蕾をつついて笑う。 その吐息ひとつで、微妙に届かない奥を求めて腰をくねらせながら、何度も訪れる甘い絶頂に鳴き声をあげたところで、ヒスイの行為は止まらないと理解する。 言葉通り、これは治療なのだろう。薬が自分の愛蜜などとは到底信じられないが、ヒスイが無言で舐め続けるあたり、そうだと信じる以外に他はない。 「……ッ…ぅ……」 期待したのか。絶望したのか。 どちらにしても、ヒスイの指を締め付けたことで心情は伝わったらしい。 雨が風を連れて窓を打ち鳴らすのと同じように、襲い来る刺激が脳を揺さぶる。 「ぃ、く……ヒスイ様、ァ…ぁ゛…ッ」 「うん。そうだね」 「ぁアッ…ゃ゛……ァっ、ぅ……も、やぁ゛」 指先以外、自由に動かせる場所がない。 神経が快楽を受け入れて、無様に果てを飛んでいるのが怖くて、助けを求めたところでヒスイの愛撫は止まってくれない。 「いれ゛で……ッ…舐めるのッ、も……ァッ、ひっ」 「入れないって、約束してるからだめ」 新月の夜を独占する代わりに、交わりはしないと約束したらしい。 誰と、かは聞かなくてもわかる。 ジンを筆頭に、コウラ、イルハ、アベニだろう。嫉妬深い彼らがヒスイと二人きりの夜を許す代わりに、この行為を許諾しているのであれば容易にうなずける。 それでも、素直に受け入れがたい。 「ヤッ、ぁ……いれ、て…っ……ヒスイ様ぁ゛」 指と舌だけの愛撫で過ぎていく時間に、理性も体裁も溶けて溶けて消えていく。一方的に愛される時間なんかいらない。愛蜜が治療薬とはいえ、提供する側の了承なしに可決されるなど許されることではない。 それを訴えているのに、ヒスイは「うん」と頷くだけ。 「封花印が光っているな」 汗ばんだ額に張り付いた髪がヒスイとは違う手で取り払われる。 それが誰かは、絶頂に悶えるアザミよりも先にヒスイの方が気づいていた。 「ああ。ジンくん、おかえり」 「調子はどうだ?」 「うん。すごくいいよ。痛みが和らいで、獣の血が騒ぐって感じ」 ほらと、何をジンに見せているかわからないヒスイの声がして、愛撫が止まる。正しくは、根元まで膣にねじ込んでいた指を引き抜かれた。 「ジンくんがいるってことは、独占じゃないから、いいよね?」 何がいいのか。尋ねるよりも先に、あてがわれたものにアザミの息がひくりと鳴った。 熱をもったオスが傘を膨らませて濡れた陰核の上をぬるぬると往復していく。 「賢帝であるそなたとの約束は成立しない。だろう?」 「ヒスイ様、今、や……ッぁ…ッぅ」 「やだなぁ。一応、これでもちゃんと守っていたんだよ?」 「だ…め…ッ……いれちゃ…ヤぁッ」 「ボクが終わるまで、そこにいてね。ジンくん」 アザミの声は無いのと同じ。 不自由に折りたたまれたアザミは、ヒスイの竿に貫かれる。 「あー、すごい……いい」 恥骨が軋むほど一気に圧力をかけたヒスイのせいで、アザミは声を失って身体を震わせていた。目隠しをした視界はいつまでも暗く、ジンとヒスイがどんな顔をしているか確認できないのに、じっと観察されていることがわかるほどには視線を感じる。 見ないでほしい。 それが言葉に変わるより先に、アザミは動き始めたヒスイの腰に揺られていた。 「ァッ……あ゛ぃ…ぐ……ッ……ヒスイさ、ま…ァッ」 「ずっと欲しかったもんね。アザミちゃん」 「そ、こ…っ……ァッ、あ゛ぁ…ヒッ、ぃ」 帯は身体を縛り付け、目隠しは快楽だけを与えてくる。羞恥を遮断して、意識が溺れて、不自由な体の代わりに、自由な声が思い浮かぶすべてを言葉にしていく。 もっと、もっと、もっと。 ずっと欲しかった刺激を求めて、狂ったように訴えるアザミの声をふさいだのは、ジンの手。 「アザミ。わたしは聖人君主ではないぞ」 「ン゛ん…ぅッ……ん゛……ぁ」 ジンに口を塞がれている間も、ヒスイの動きは止まらない。 ぐちゃぐちゃと攪拌される音が全身を何度も襲ってくるのに、ジンが横に並んで寝転がってくるのを知ってしまえば、意識が霧散してしまう。 「アザミちゃん、こっちに集中しようね」 「アザミ、わたしをないがしろにするつもりか?」 揺れる体、奪われた視界。ヒスイだけならまだしも、どこに触れてくるかわからないジンの指先が、いちいち思考を刺激して、混乱を与えてくる。 集中できなければヒスイに虐げられ。ヒスイに意識をやればジンがいましめてくる。 また、どこかで雷鳴がとどろく。チカチカとまたたく刺激の中で、アザミは抜け出せない温もりに包まれていた。
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