壱書:黄宝館の金鶏

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03:賢帝の青龍王 豊かな藍色の長髪、深い青の瞳を持つ四獣の一人、賢帝の青龍王ヒスイが来訪したのは、つい先ほど。アザミがコウラに抱き潰された一週間を終えたばかりだとわかっているのか。妙に視線がしつこい。 「やあ、アザミちゃん。元気してた?」 人懐こい笑顔と柔らかな物腰、穏やかな口調で四獣の中でも、とりわけ女性人気が高い。 アザミは昔からヒスイが苦手だったが、いつもにこやかで好青年のヒスイは関係なく近づいてくる。距離感は昔からおかしい。それを今さら指摘したところで、どうにもならないことは知っている。 「ヒスイ様」 「んー、なぁに。アザミちゃん」 「いつも申しておりんすが、幼子にするように髪を撫でるのはやめておくんなんし」 人柄で許されることがあると知っていて、ヒスイは昔から距離が近い。 背丈はおそらく五人の王の中で一番高く、しかも肉厚で、ちょっとやそっと押したくらいでは揺るがない。 「わっちはもう二十四でありんすよ」 「知ってるよ。ボクが二十七歳だからね」 ニコニコとした顔はアザミが不貞腐れても崩れない。大きな手で、綺麗に結い上げたアザミの髪をぐしゃぐしゃに崩すのはこの男くらいだと、アザミも諦めたように肩を落とす。 「かんざし。新しいね、コウラくんからもらったの?」 いつの間に引き抜いたのか。 ロウ細工のような黄色い梅の花が可憐に咲くかんざし。それが、ヒスイの指先に捕まっている。 「蝋梅なんて、執着心が強いなぁ。まあ、こじらせた積年を思えば当然か」 言いながらくるくると指先で器用に回すかんざしをアザミはじっと見つめていた。 いつになったら返してもらえるのだろう。 ヒスイは時々、アザミの持ち物を自分のもののように扱って、なかなか返却してくれないときがある。 「そんな顔をしなくても返すよ。ほら、こっち座って」 手招きされたのは片膝を立てたヒスイの足の間。アザミは崩れた頭のまま近づいて、不貞腐れた顔でヒスイの足の間に収まった。 「髪がぐちゃぐちゃだね」 「ヒスイ様のせいでありんすから、元に戻しておくんなんし」 「いいよ。じゃあ、一度全部ほどくから、かんざし、両手で持って」 女に慣れて、手先が器用なヒスイにとって、これくらいの要望に応じるなど朝飯前に違いない。実際、後ろから腕を回すようにアザミの両手を胸元まで持ち上げさせると、そこに蝋梅のかんざしを乗せて「いい子」と耳元で笑っていた。 「……ヒスイ様の声は、ほんに、良うございんすな」 「アザミちゃんはボクの声、昔から大好きだもんね」 「そんなことは、言っておりんせん」 「ほら、危ないから前を向いて」 振り返ろうとした頭は片手で簡単に掴まれて前に戻される。むっとしたアザミの両手に、一本、また一本と抜かれたかんざしが乗せられて、髪をほどくヒスイの手がゆっくりと後頭部から背中へと流れ落ちていく。 大きな体に似合わず、優しい手の動きに段々と体の力が抜けていくのは仕方がない。 「懐かしいなぁ。アザミちゃんを足の間において、本を読んであげたのが昨日のことのようだよ。毎日そうしていたのに、どうしてしなくなったんだっけ?」 「ヒスイ様が耳をかじったりするせいでありんす」 もう忘れたのかと、アザミはふんと鼻を鳴らす。 十五歳で初めて四獣と対面し、統王であるジンが手を付けるまで、彼らと交わることは禁忌とされていた。それでも、一週間ごとに監視役として花魁と四獣の交流は義務付けられる。アザミは仕込まれた芸術を披露するため、舞いを見せたり、歌を詠んだり、楽器を弾いたり、絵を描いたり、盤上の駒を動かす遊びや彼らの持ってくる細工品を一緒に眺める時間を過ごしていた。 ヒスイが言っているのは、物珍しい本を持ってきてアザミに読み聞かせていたときのはなし。アザミが「ヒスイ様の声は心地よく響きます」と言ったせいでもあるが、当時、ヒスイはアザミを膝の上にのせて本を読み聞かせることにはまっていた。 「そんなことした?」 「しんした」 いつの頃からか、ヒスイは読み聞かせる際にアザミの頬を撫でたり、髪を崩したり、耳をかじったりしてくるようになった。当の本人は忘れているらしいが、後ろから抱きしめられ、耳元で「好きだ」と囁かれたのは危機でしかない。 アザミも十七歳という夢見る少女であったころ。 まだ、ジンが来てくれることを期待して、純粋に待っていたときのはなし。 先に四獣と交わりを持ってしまっては大変だと、アザミは四獣との交流を最小限に抑えるように意識し始めたのだから、よく覚えていると肩を落とした。 「七年も前の話でありんすから」 「別室が用意され始めたのがそれくらい前だよね?」 「乙女が貞操を守るのは当然でありんしょう?」 「あはは、それだと。ボクが危険人物みたいじゃん」 みたい、ではなく事実そうなのだと、アザミは両手の上に置かれたかんざしをみて息を吐く。無防備に接触してはいけないと、本能が警戒したのだから、距離をとって正解だったと今では思う。 ヒスイは身体が大きいから、無条件に安心感を得てしまう。四歳で監禁される身の上になったアザミにとって、甘えられる人間は多くない。 いま、こうして髪をほどかれるだけで無意識に身をゆだねてしまうくらい、ヒスイの持つ独特の気配はアザミの気を緩ませる。 「ヒスイ様、いい加減に髪結いを」 振り返った先にある顔が近い。あと少し身体を寄せれば、簡単に重なってしまう唇の近さに、アザミは慌てて顔を前へ戻す。 「髪結いねぇ……イヤだって言ったらどうする?」 「なっ」 ふざけるのも大概にしてほしい。そう言い返したいのに、背後から耳に囁く声がゆっくりと前に回ってきた腕と相まって言葉が続かない。 「アザミちゃんもひどいなぁ、うなじにコウラくんの噛み痕がたくさんあるのに、ボクに見せつけて、嫉妬させたいの?」 「……ちがっ……ぅ」 「昔から無意識に煽ってくるのは、アザミちゃんの悪いところだよね」 背後から抱きしめられる感触がぞくぞくする。この感覚が苦手で距離を取っているのに、触れられる手の大きさから逃げられそうにない。 「アザミちゃんに触れていると魔那(マナ)が落ち着く。ずっとこうして触れていたかったのに、距離をとられて寂しかったなぁ」 「色恋沙汰の多いお方は、言うことも洒落ておりんすなぁ」 ヒスイは昔から機嫌を取るのが上手だと、からかい半分でアザミは笑う。場の空気のなごませかたを知っている。だから警戒心が薄れてしまうのだと、アザミはかんざしを持ったままヒスイに抱きしめられていた。 「アザミちゃんは悪い子だね。ボクが人一倍魔那の扱いに苦労しているの知っていて、そういうこと言うの?」 ひどいなぁと耳元で軽やかに囁かれる言葉が、くすくすと笑って腕の締め付けを強めてくる。 魔那は天女から授かる特別な力で、邪獣と戦う四獣は特に大きな力を授かっている。中でも、青龍の加護を持つヒスイは神童と称される一方、その力加減を手中に収めるのに苦労していた。 「ボクにまた触れさせてくれるのは、四獣との交わりが解禁になったから?」 「そ……れは」 抱きしめていた手が這い上がってきて、両胸を下から持ち上げてくる形に変化していく。わざわざ告げなくても掟なのだからわかるだろうと言いたいのに、なぜか声が口を突いて出てこない。 しかも、両手にはかんざし。身動きが取れないまま、アザミの胸はヒスイの手の形に変わっていく。 「……っ……ぁ」 「ほら、力抜いて。そんなに強く握りしめたらコウラくんから贈られたかんざしが壊れるよ」 そう言われても、衣ごと揉まれる乳房の形に意識が奪われる。ぐねぐねと変形していく眼下の光景が刺激的すぎて、かんざしを握りしめていることにも気付かなかった。 「……ふ、ァッ」 するりと着物の合わせ目から入ってきた手に驚いて、身体が硬直してしまう。 「アザミちゃんの胸って、思ってたよりも小ぶりだね」 「なっ……ン、ぅ」 「んー、コウラくんにここも可愛がられてるでしょ?」 失礼な発言をなかったことにできるとでも思っているのか。ヒスイの両手は休むことなく動いて、その指先でアザミの乳首をつまんでいる。引っ張ったり、ひねったり、優しくなでたり、指ではじいたり。人が抵抗できないのをいいことに、好き放題しているが、確かにコウラに覚えさせられた快楽の蕾が花開いてきて、アザミの身体は小さく丸まろうとしていた。 「ぁっ……ひ、ぅ」 両胸の乳首を同時に強くひねられると、身体が跳ねて胸を突き出す姿勢になる。 執拗に胸だけを揉まれている状況を回避する方法がわからなくて泣きたくなる。 「待っ、ぁ……ヒスイ様、そこ……ヤッ、ぁ」 いつの間に着物の中から抜け出したのか、ヒスイの右手がもじもじとこすり合わせていたアザミの足を広げ、その中心に向かって足を撫でている。 「アザミちゃん」 静かに耳に囁くのは卑怯だとアザミの身体が一時停止する。その合間を縫って、ヒスイの手はアザミの秘部に到達し、ぬるりとその割れ目を指先でこじ開けていた。 「さっき慌ててたのは、こんなに濡らしていたから?」 「……ッ、ん……ちが、ぁ……」 「違わないよ。蕾もこんなに勃起させて、いやらしい子だね」 「ぁ、っ……ヒスイ、さま……」 指の腹で陰核をなぞられる。右手の中指、たった一本が強弱をつけて往復する。たったそれだけの行為が、アザミの息を早めていく。 「アザミちゃんは突起物をこねられるのが好きなの?」 「ヒッ、ぅ……ちが、ァ、あぁ……ッ」 違う、好きじゃない。そう言っているのに、ヒスイの指は止まらない。 着物に入った左手も、股の間を往復する右手も、敏感に固まる突起物しかいじらない。 眼下でうごめくのはヒスイの腕だけ。背中を預けるヒスイの顔は、アザミの上から覗き込むようにそこにあって、時々耳に「気持ちいいね」と囁いてくるだけ。 「ヒスイさ、ま……それ…ッ…いやぁ」 一本から、二本。扱う指の本数が器用に増えて、アザミの割れ目は開かれ、指の腹で陰核が激しく弾かれ始める。コウラが舌で舐めていた感覚とは違う。引いたはずの腰が逃げ場をなくして、ヒスイの指先に意識が集中していく。 「ヤッ、ぁ……だめぇぇ……ァッ、ぁぁ」 ぎゅっとかんざしをにぎりしめながら、アザミの腰が前後に震える。 ヒスイの指先に甘えるように腰を振って、歯を食いしばりながらじっとうつむいていた。 「アザミちゃん、もっとイクとこ見せて」 「ヒぃっ……や、やだぁ……ヒスイさまぁ」 後ろのヒスイが体勢を動かして、アザミはヒスイに持ち上げられるように腰を浮かせる。 足が膝を立てたヒスイの足に連動して大きく開脚し、着物がめくれあがって、濡れた秘部にヒスイの指が二本、無遠慮にねじこまれていくのが見えていた。 「そんな声出してもダメだよ。絶対、やめてあげない」 抵抗するアザミの声を無視して、ヒスイは腕を締め付けていく。 元から体の大きさが違うふたり。目の前にある小さな体を逃がさないと言わんばかりに、ヒスイはその全身を使って、アザミを逃げられないように拘束していた。 「ァッ、ぁ……だ、め……ヒスイさま…そ、こぉ」 「ここかぁ。ああ、本当だ。蜜の量が増えたね」 ぐっちゃぐっちゃと聞くに堪えない卑猥な音が聞こえている。 ずっと、攪拌される壷の中から何ともいえない匂いが立ち込めて、室内に充満していく。 「ダ、めぇ……なにか、出そ……でちゃ、ぅ」 感じたことのない刺激に神経が震えていく。恥ずかしいはずなのに、純粋に快楽に身をゆだねているのがわかる。 ヒスイの顔が見えないせいで、快楽だけが掘り起こされていく。 見えるのは腕だけ、聞こえるのは声だけ。 「大丈夫だよ、アザミちゃん。ほら、イクッて言ってごらん?」 「ぁ、アァ…ッ…ぃ、いく……ヒスイさ、ま……イクッ、いくぅ」 アザミの腰は高く突きあがり、ヒスイの指を強く締め付ける。同時に、激しく出入りしているヒスイの指と一緒に何かよくわからない飛沫が舞っているが、煌々と灯る行燈はその正体を教えてくれない。 「はぁ…っ…はぁ……な、に……いま、の……何」 「潮を噴いたのはじめて?」 頭頂部に口づけを落としてくるヒスイに、「危ないから」とかんざしを奪われ、寝具の上へと運ばれる。薄明かりのなかでみる、三人目の男の裸体。身体の大きさに見合った猛々しいほどの剛直さに、アザミの喉がごくりと鳴る。 「なに惚けてるの?」 くすくすと意地悪に笑ったヒスイに腕を引かれて、アザミの視界は揺れ動く。 全裸のヒスイが真下にいる。仰向けというより、寝具の背もたれに背をあずけて半分座ったヒスイの上に、アザミは服を着たまま跨っていた。 「服は脱がなくていいよ。っていうか、脱がない方がいいよ」 「ぁ……ぁ、の」 相手は全裸なのに、自分は服を着たままでいいのか。疑問符を浮かべるアザミの腰を引き寄せながら、ヒスイはまだ笑っている。 「んっ、ぅ……ヒスイ、さ、ま?」 ぬるぬると生身の下半身同士が擦れあう。 いつも入るのか不安になるが、結局は入ってしまうのだからヒスイのモノも入ってしまうのだろう。けれど、今までの二人よりも明らかに太くていびつなヒスイの雄が全部入るとは、どうしても思えない。 「その下、コウラくんの痕ばっかりでしょ?」 「えっ……ッん、ぁ……ヒッ、ぅ」 腰の位置を動かして唐突に埋めてきたヒスイの行為に、アザミの顔がわずかに歪む。 まだ半分も入っていない。それなのに、内臓を押し上げてくる圧迫感が苦しい。 「アザミちゃん、後ろに手、つける?」 半分埋めた状態で、身体を起こし、後ろ手で自分の身体を支えろというのか。 対面というには中途半端な姿勢の要望に、アザミは呼吸を浅くしながらも、膝をたて、両手をヒスイの足の間において、背中に体重をあずける形で上を向いた。 「ヒッ、ぃ………っ、ぅ……ぁ」 アザミの体勢を確認するなり、ヒスイが腰を引き寄せてきて、一気に恥骨が密着する。 脳天を突き抜けるような鈍痛が下腹部を押し上げたせいで、アザミはのけぞりながら、その刺激に声を失っていた。 「いい眺めだよ、アザミちゃん。これならアザミちゃんの大好きな場所もいっぱい可愛がってあげられるし、ボクのがちゃんと入ってるってよくわかる」 「ァッ……ぁ……な、ぅ」 崩れた衣装が、胸と秘部だけをあらわにして、ヒスイの手のひらに包まれていく。 先ほど散々いじられ続けた突起物がその温もりを期待しているのだろう。膣がキュッとしまって、埋まるヒスイに圧力をかける。 「アザミちゃんは、本当、煽るのが上手だね」 「……っ、ぅ?」 恐る恐るヒスイに視線を向けて、アザミは息をのんで固まった。 人当たりのいい笑みをどこに追いやったのか、深い青の瞳が夜の濃さを連れてアザミの肌に腕を伸ばしていた。
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