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「最悪……雨降ってきちゃったね」
「あ、ほんとだ。結構降ってるな」
今週はテスト週間だから早帰り。嬉しさを感じていたものの、土砂降りでテンションが一気に下がった。
――朝は晴天だったのに、何で天気ってこんなに変わるの……。
「あれ、お前傘ないの?」
「そりゃそうでしょ。朝晴れてたんだから持ってないの」
「えー、まじか」
そんなことを言いながら、彼は折りたたみ傘を広げていた。あんたは持ってるのかい、と心のなかでツッコミを入れる。
こんな幼馴染に傘入れてなんて言えるわけないし。少し雨宿りしよう、と思った。
「きみ、傘持ってないの?」
突然、誰かが私の耳元でそう言った。甘く優しい声に私はひどく驚いてしまう。
顔を見上げると知らない人だった。もしかして先輩、だろうか。
「は、はい。急に雨降っちゃったから持ってきてなくて」
「あー、そうだよね。俺も折りたたみたまたま持ってきてるだけだし。もし良かったら傘入ってく? 送ってくよ」
優しくてかっこいいひと。きっと女子ならイケメンだと騒ぐだろう。それに見た目だけじゃなく中身も素敵な人だなんて――。
誰かの傘に入れてもらうって勇気がいるけれど、私は素直に入れてもらおうと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えて――」
「待って。お前、俺の傘に入る約束してたでしょ?」
何故か分からないけれど、幼馴染の彼が突然、私を見てそう言った。
――そんな約束した覚えないんですけど。
「してない……!」
「そうなんだ、ごめんね、彼氏いたんだね。じゃあまたね」
「彼氏じゃ……!」
気分は最悪だった。幼馴染と相合傘なんて、本当にツイてない。
確かに雨は先程よりも強くなっていて、すごく大粒だから危険だけど。
「はぁ……」
「何だよ。そんなに俺の傘入りたくなかった?」
「そうじゃないけど。何であのとき嘘吐いたの?」
俺の傘に入る約束してたでしょ、なんて……約束なんかしていなかったはずだ。
何でも言い合える関係、幼馴染。きっと私への仕返しか何かなんだろうな。
そう思っていると、信じられない言葉が聞こえた。
「……好きだから」
「えっ?」
「お前が好きだから」
頭の中が真っ白になるのが分かった。
何を言っているのか、何を伝えられたのか、上手く頭に入ってこなかった。
生まれて……初めての告白をされたんだ。
その途端、ぱたりと雨がやんだ。
大粒で強い雨が突然やんで、私たちは目が点になった。――これじゃあ拍子抜けなんだけど。
「あっ、き、急にやんだな」
「そ、そうだね……!」
何この初々しいカップルみたいな会話。
何だか恥ずかしくて彼の目を見れない……!
先程の “好き” という言葉は、本当なのだろうか。
「俺、本当に、お前のことが好きだから」
「……全然、知らなかった。いつから?」
「小さい頃からずっと。ほんと鈍感だよな」
人から好かれることってこんなにも嬉しくなるものなのだろうか。
それとも、彼だから? 彼からの告白だからこんなに胸が高鳴っているの……?
「見て、青空に虹が出てる」
「えっ……! あ、ほんとだ! すごく綺麗」
「だな」
雨上がりに虹が出ている空をきみと見ながら、微笑みあった。
私の視線の先には、きみがいた――。
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