私の歌声をもう一度、 あなたに届けたい。

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 麻酔から目覚め、家族の顔を再び目に映す。  反射的に口を開いて力を入れたが、声が出ない。  そうだった。  私、声が出なくなっちゃったんだ。  歌手だったのに。  テレビにだって出てたのに。  あの声は、もう二度と私から発されることはないんだ。  開けた口を、ゆっくりを閉じた。  家族たちが口々に言葉をかけてくれているが、何も頭に残らず消えていく。  手術前は、録音があるとか食道発声を練習するとか言って強がって、どこか現実味もなかったけど、やっぱり。  歌手の私が声を失って、これから何を大切にして生きていけばいいんだろう。  もう、大好きだったあの声で歌える日が訪れることはないのに。
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