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病室の窓から外を見て、ぼんやりと時間を浪費した。
スマートフォンでの会話には慣れたけど、虚しかった。
雄大が録音した言葉のデータをくれたけど、再生ボタンを押せずにいた。
手術後、マサから来ていた返信を見た。
『ありがとう。保存した』
久々に返信がきたと思ったら、それだけなの?
保存したという言葉が、もう二度と前の声は出せないという事実を私に突きつけた。また聞けるなら、保存する必要なんてないから。
マサはもう、あの声を失った私に興味はないのだろうか。
「姉ちゃん!」
雄大が病室に駆け込んできた。
緩慢に目線を向けると、雄大は興奮気味にイヤホンを差し出した。
「聴いて!」
のろのろと耳にイヤホンを付けると、雄大は高揚した様子で何かを再生した。
『私のすべてはあなたのために
目も耳も声も両腕も
あなたの笑顔に幸せをもらい
あなたと言葉を贈り合い
ぎゅっと抱きしめるためにある』
それは、マサの作った新曲だった。歌っているのは私だけど、私じゃない。
抑揚がなく平坦な歌い方だけど、しゃくりは私に似ているような。
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