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久々に会ったマサは、髪がだらしなく伸びて無精ヒゲがはえていた。
部屋の中は散らかっていて、ゴミ箱の中にはパンパンに詰め込まれ、蓋が閉まらず開いたままになっていた。
「今日は聴いてほしいものがあるんだ。ね、姉ちゃん」
雄大に言われて頷いた。
私が悲しむよりも先に私の声を惜しんでくれていたマサに、ずっと私の歌声を好きでいてくれたマサに、聴いてほしい。
世界中に歌声を届けたいだなんて欲張りなことは、もう望まない。
マサの心にもう一度、私の歌声を届けたい。初めて私の歌声を好きだと言ってくれたマサに。
家に閉じこもってしまったマサに、私と一緒に前を向いてほしい。
固まった心に、どうか響いて。
訝しげなマサの耳にヘッドホンを被せた。
雄大が再生ボタンを押すと、一緒に録音するはずだった新曲のイントロが聞こえたのだろうか、マサは目を見開いた。
曲が進むにつれ、マサは大きな目を丸くし、眉をひそめ、口をポカンと開けた。
最後まできっちりと聴いたマサの第一声が気になって仕方がなかった。
「何これ?」
「ですよね」
肩を落とす雄大を無視して、スマートフォンに文字を打ち込んだ。
私にはわかる。疑問形なのはきっと、興味を持っているから。
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