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結局10時3分に到着して、呆れた顔をしたマサに出迎えられた。
肩まである髪を邪魔そうにハーフアップにしながら、これ見よがしにため息をつくマサの気を逸らしたくて口を開いた。
「最近さ、声がすぐに出ないんだよね。たまにだけど」
すると、マサは目を見開いた。長い前髪の隙間から、大きなキュルンとした瞳がのぞく。
「声が出ないってやばいじゃん。病院行ったほうがいいよ」
「えーめんどくさい。ほんの時々だけだし気のせいだよ」
「何もないならそれでいいじゃん。歌手なんだから念のため。今日の録音は中止ね」
KiRaの活動はマサがいないと成り立たないので、私はマサの言葉に逆らえない。
文句をブツブツと垂れ流しながら、渋々病院に向かった。
あーあ、めんどくさい。さっさと終わらせて録音したい。
しかし、新曲をマサの家で録音する日が訪れることはなかった。
最初に行った病院で紹介状をもらって大学病院に行き、よく分からないまま医師の言う通りに様々な検査を受けた。
「現代の医療では、手術で喉頭を取り除くしかありません」
険しい顔をした医師の宣告に、頭が真っ白になった。
気がついた時には家に帰っていて、カレンダーの破片に囲まれていた。
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