私の歌声をもう一度、 あなたに届けたい。

2/17
前へ
/17ページ
次へ
 結局10時3分に到着して、呆れた顔をしたマサに出迎えられた。  肩まである髪を邪魔そうにハーフアップにしながら、これ見よがしにため息をつくマサの気を逸らしたくて口を開いた。 「最近さ、声がすぐに出ないんだよね。たまにだけど」  すると、マサは目を見開いた。長い前髪の隙間から、大きなキュルンとした瞳がのぞく。 「声が出ないってやばいじゃん。病院行ったほうがいいよ」 「えーめんどくさい。ほんの時々だけだし気のせいだよ」 「何もないならそれでいいじゃん。歌手なんだから念のため。今日の録音は中止ね」  KiRaの活動はマサがいないと成り立たないので、私はマサの言葉に逆らえない。  文句をブツブツと垂れ流しながら、渋々病院に向かった。  あーあ、めんどくさい。さっさと終わらせて録音したい。  しかし、新曲をマサの家で録音する日が訪れることはなかった。  最初に行った病院で紹介状をもらって大学病院に行き、よく分からないまま医師の言う通りに様々な検査を受けた。 「現代の医療では、手術で喉頭を取り除くしかありません」  険しい顔をした医師の宣告に、頭が真っ白になった。  気がついた時には家に帰っていて、カレンダーの破片に囲まれていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加