私の歌声をもう一度、 あなたに届けたい。

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 手術の日程が決まったと医師に告げられて、一時的に退院したいとお願いした。  どうしても、マサが作ってくれた新曲だけは最後に歌いたい。  手術までの間に数日病院を離れても大丈夫だろうとの判断で、3日間の一時帰宅の許可が出た。歌ってもいいか聞いてみると、歌手だという事情を理解して許可してもらえた。  私は3日間、マサの家で録音をするつもりだった。  早速、マサに電話をかけた。出てくれるか不安だったけど、10回くらいコール音がした後にようやく『……もしもし』と声が聞こえた。  だけど説明をするとすぐに、『手術しないと死ぬような病気なのに歌うとかバカ蘭!』と怒鳴られて切られてしまった。それからは何回かけても電話に出てくれない。雄大からの連絡にも反応しなくなってしまった。  歌ってもいいって、ちゃんと許可もらったもん。  そのことも説明したはずなのに、なんでバカって言われなきゃいけないのよ。  そういうわけで暇になってしまった一時帰宅期間。  帰宅前日にお見舞いに来た雄大に何をしようかと相談すると、雄大は事もなげに言った。 「おれが録音してあげるよ。夏休みで暇だしさ」 「え?」  目をぱちくりとさせると、雄大はニッと笑った。 「機材は正弘くんの家の方が揃ってるだろうけどさ、俺も安いマイクなら持ってるよ。あと、ずっと試してみたかったんだけど」  イタズラっぽい笑顔を浮かべる雄大に首を傾げた。こんなに楽しそうなのも珍しい。 「姉ちゃん、ボーカロイドにならない?」 「はあ⁉︎」  顎が外れそうなほど驚いた。
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