私の歌声をもう一度、 あなたに届けたい。

9/17
前へ
/17ページ
次へ
 次の日。  録音の最初から良い声で歌えるようにお風呂で声出しをした。小さな声でも響くから楽しい。  さて、そうして録音を始めたのはいいのだが。 「あんああいあうあ」 「いんいいういえい」 「うんううえうおう」 「えんええおえあえ」 「おんおおあおいお」  5回録音して分かった。これやばい。  録音の一覧表を見てげんなりした。  濁音とか半濁音とかはともかく、つぁつぃつつぇつぉとか、くぁくぃくくぇくぉとか。確かに必要なのは分かるけど量が多すぎる。 「だから言ったじゃん、ものすごく多いよって」 「こんなに多いなんて思わないよ……」 「安心して、鼻濁音もちゃんと録音するから」  歌手としては安心だけど、録音者としては不安しかない。  何度も休憩を挟み、残りの量に絶望し、試し聴きして気に入らなかったものは録り直して、2日かけてなんとか終わらせた。 「やっと終わったぁ……」  最後の一つを録音して崩れ落ちると、雄大は遠い目で笑った。 「この後に待ってる編集作業のことを考えると、おれはさらに絶望だよ……」  あ、録音量が多いと編集も大変だってことを忘れてた。 「よろしくお願いいたします」  深々と頭を下げると、雄大は大きなため息をついた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加