私の歌声をもう一度、 あなたに届けたい。

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「……、ん、10時ね」  一瞬声が出なくて顔をしかめた。最近声がすぐに出てこない。 『遅刻せずに来いよ。10時に来ればいいんじゃなくて、10時から録音を始めるんだからな。分かったな、(らん)』 「はいはーい」  適当に返事をして電話を切る。  念を押されなくても分かってるし。 「あーあー」  うん、いつも通り。気のせいよね。  そう結論づけて、壁にかけてあるカレンダーを見た。インターネットに投稿する動画用の録音のスケジュールを書いているカレンダーだ。  最近はそこにテレビの音楽番組の日程も書き込まれるようになった。  私は、大学に通いながら歌手のKiRaとして活動している。  名前の由来は、本名が青木蘭で昔からキラと呼ばれていたから。  昔から将来の夢は歌手だった。  高校の卒業式の日、クラスメイトだったマサに歌声が好きだと言われて、マサと一緒に本格的に歌手を目指すようになった。  インターネットに投稿した動画が話題となり、カバー曲だけではなくオリジナル曲を歌うようになってからはテレビにも呼ばれるようになって、夢だった歌手としての道を歩み出していた。  もっと多くの人に歌声を届けたい。  それが私の原動力だった。  今日もマサの家で新曲の録音をする予定だ。マサはKiRaが歌う曲の作曲やミックス、動画編集、投稿、宣伝などを担当してくれている。  要するに、歌うこと以外は全部引き受けてくれてるってこと。  マサが作ってくれた新曲は初めて聴いた時からお気に入りで、録音するのが楽しみだった。
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