このいろに

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 私の瞳には他人が纏っている色が見える。かといえそれがなんらかの役にたったことなんてまずない。単なる特技にしかならない。  人の色がオーラだとか言うものかもしれないけど、それを読み取って言葉にするのが難しいから占いとかにも利用できたりはしないんだ。  私が見ているのは人よりもちょっとカラフルな世界だということ。 「悪いよね」  そして他人だけでなくて自分の色だって見える。ソファーに座って手を高くかざす。そこには黒く靄を纏ったような私の手があった。  別に黒いからと言えそれが犯罪者というわけでもない。街を見渡せばそんな人は転がっているくらいに居る。だけどなんだか気分は良くない。  鮮やかな色だったり、虹色や真っ白に憧れる。  だけど私は黒い。子供のころからそうなんだ。私的な統計でいうと人の色は持って生まれたものだから、いつの間にか違っているなんてことはない。  純白で生まれた人は死ぬまで白く、虹色だったらずっとそれが続く。なんなら犯罪者、極悪人を見たとしても綺麗な色の場合だってある。だから占いもできないんだ。 「同じ色だね」  なんとなく自分の色を落ち込みながら眺めていると、そんな言葉を思い出す。  古く遠い昔にこんな会話をしたことはあるけど、全く思い出せない。  もしかしたらその言葉は私と同じ人の色が見える人との希少な会話だったんだろうと今は思っているが、まだ私は幼くってそんな風には思ってなく全然覚えてない。残念なことだ。 「人のオーラが見えるなんてそれだけで憧れるけどなー」  高校時代からの友人と会って街中でふと占い師を見つけてこの話題になる。  この友達には私の特技にもならないことを全て話している。もちろん私の色が黒なことも。だからではないが「メリットないよ」といつも通りのつまらなそうな顔で返している。  因みに彼女は私のほうが憧れている虹色。これはあまりいない。そして彼女はそれを表すように素晴らしい人生を歩んでいた。  昔からよくモテた彼女はそりゃあもう容姿も良くて稼いでくれる真っ白な人と大学を出たとたんに結婚した。幸せを掴んだのだ。そして今の彼女の腕の中には金色を帯びた赤ちゃんが居る。  こんなに色通りの家庭なんて本当にハッピーなんだろう。だけど、それは個人的な意見でしかなく「役に立たないよ」と言うのはやはり人は色だけでは判断できないから。 「でも! 人のオーラが見えたら、便利じゃない!」 「だから、良い色だからってその人が素晴らしい訳じゃないんだよ。統計的にみても犯罪者がくすんだ色ってこともないし。綺麗な色を持ってる人でもヒドイ人だって居るんだから」  軽く楽しそうに私を見ている彼女だけどこんな会話はこれまで多々あった。しかし彼女は譲らない。 「そういう占い師だっているでしょ?」「そうだけど」「なら、合ってるのかもよ」  どうしても彼女は私を特別な力の持ち主と思いたいらしい。そう言えば今の旦那さんの色もわざわざ聞かれたくらい。信じたいならそれでもかまわない。信じる者は救われる。  だから今も隣で目をキラキラとさせている彼女にそんなに強くは反論しないが、一言だけ残す。 「だったら私は極悪人だね」  そうなのだ。私は黒。正直こんなに真っ黒なのは他の人でも見たことがない。 「えーっと、その力を悪用しないようにね」  全くフォローになってないが、まあ友人なので気にはならない。私も自分で黒は素敵じゃないとは思っているが、イコール最悪とも考えてはいないのだから。 「単純に眼に問題があるだけなのかもしれないしねー」  これは結構考えたこと。そして子供のころは親たちに心配されたことだった。  だって他人には見えない色が見えているんだ。思えば数々の病院を巡ったことだってある。  しかし、隣を歩いている彼女は信じてもない。 「特別扱いできるだけの力があるんだからそんな風に言わないで喜びなさいな。私に名案がある」  軽くその拳を掲げている友人はなにやら良い思い付きがあるみたいこの人は楽天家なところもあるから気を付けつけたほうが賢明。とはいえその案と言うのは気になるので「どうしたの?」ってあきれた雰囲気で聞いてみる。  すると友人は横でにたりと笑ってこっちを向いていた。
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