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「どうしてこんなことになるんだろう」
独り言を言いながら歩くけど、ちゃんとカランコロンとゲタを鳴らしている私は正直者なんだろう。ブラックカラーなのに。
約束の花火大会の日、待ち合わせに向かう私の心境は難しい。不思議なものを見る力を持っている私と、同じ力を持っている人がいるなら会ってみたい。しかし、その相手が良い人とは限らない。友人も全然知らない人なんだから。
「ヤッホー! おうっと。ゆかた美人さんだねー。二人で居るとナンパに会っちゃうか」
すこぶる彼女はいつも通り楽しそう。もちろん独身ロンリーブラックな私と違って、綺麗なのは虹色な彼女。ゆかた姿で二人並んでいてもその差が明らかだ。
「夫と子供が居るのに、そんなのを望んでるわけ?」
「まっさかー。愛してるのは旦那と息子だけ。でも、綺麗だとどんな人にだって言われても嬉しいじゃん」
彼女が一途なのは十分承知なので私も冗談で語ったのに、返しが軽やかだ。
「さいですか。それで? そのそちらの最愛の人で、今日のボディーガードさんたちはどちらへ?」
彼女の周りにあの爽やかな旦那さんと天使な息子くんの姿はない。
「さっきお相手の彼も現れて、冷たい飲み物でもって買いに行かせた」
ストンと語る彼女なのだが「人使い荒いな」という言葉ににこっとしている。
「例の彼の提案だから甘えてみた。なんなら息子が可愛いって抱っこしてたから子供好きみたいだよ」
気になる人の印象を語っていた彼女だが「それでどうなの?」と私が聞くと「だから、良い人で子供好き」と答える。
「聞きたいのはそんなことじゃない。見えるのかってこと!」
私の懸念はそっちなので聞きただすと「それは本人同士でってことになって」と言いながら彼女は辺りを見渡していた。もちろん男連中を探してるのだろう。そして見つけたらしくて手を振っている。
爽やか旦那と天使くんと一緒に、その人は居た。
あまり容姿端麗とは言えない。けど、まあ普通。それよりも見た目からも笑顔で友人の息子くんを見ている表情から、彼女の言う「良い人、子供好き」は本当みたいに私にも思える。
そして一番気になったのはその人が帯びている色だ。日々色んな人の、色を見ている私でも驚くのは、私と同じ漆黒を纏っていたから。こんな黒い人はあまりいない。
睨むようにその人を見ていると「どうも、こんばんは」と私にも笑顔を向け、彼が話しかける。
「どうも。貴方は本当に人の色が見えるんですか?」
私が聞いたその瞬間に笑い声が聞こえる。その楽しそうな声は隣の友人からで「直球過ぎない? 花火の見えるところまでは移動しようよ」なんて私の肩を叩いていた。
なので四人、と抱っこされた息子くんで花火会場の海のほうに向かう。段々と人が多くなって、正直私はこんなところが苦手なのでうんざりとしていたが、例の彼が私を見て話を始める。
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