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「どうしようか? 人混みは好きじゃないし、花火はそんなに好きじゃないでしょ? 僕たちもちょっと離れようか?」
友人たちと別れて彼は気を使ってくれている。
しかし私が人混みや花火が好きじゃないのはどうして知っているんだ? とは思ったけど、今はちょっと目がチカチカするくらいに気分が良くない。
頷いて花火会場から離れて雑踏から移動する。高台の住宅街に近所の人たちが庭から花火見物をしている静かなところ。このくらいなら私も落ち着ける。
「どうして私の心を見透かしたようなことを言うの?」
それは今さっきこの場所に移動した理由だ。それを聞こうと思った。
「それはさ、俺も一緒だから」
一度首を傾げたが直ぐに意味はわかった。
「人混みっていろんな人の色が混ざって煩わしい。それなのに花火なんて見たら、色に溺れる」
まさしく彼の言う通りなんだ。この特異な力の悪いところでもある。
「本当に一緒なんだね。こんな人が居るなんて」
「あれー? それは昔から知ってると思ったのになー」
「ごめん。忘れてた」
正直な私の言葉を聞いて彼はアハハハッと笑う。しかし、笑い終えると真剣な顔になった。
「じゃあ、昔プロポーズしたのも憶えてない?」
ギョッとした。だけどまだ彼は真剣な顔をしている。だから「ホントに?」と聞くと「冗談かもね」ってにっこりと笑う。どっちが本当なのかはわからない。
「だけど、黒同士も悪い組み合わせじゃないと思うんだ」
「悪人同士だから?」
色の話に戻ったのでなんとか話が進む。
「違うって。黒は悪に例えられがちだけど、黒はどんな色にも負けないんだ。全てが混ざった色だから。淡い色の人は、他の強い色の人に染められてしまう。そんな心の強さを持ってる」
「それも君の推察なの?」
「半分は。だけど半分はテキトーに語ってる」
あっけらかんと彼が言うのでついクスッと笑って「とんだ詐欺占いだ」と言う。
「詐欺とはヒドイ。だけど、こう言うのって良い言い方をされたら信じたくなるでしょ。物事は見方だよ」
バカみたいな言い訳にも聞こえるけど、納得してしまってお腹を抱えて笑ってしまった。これまで私がこの力や色を恨んでいた思いが晴れてしまう。この人はおもしろい人だ。
「そう思うと良いのかもね」
「なんでも一方的な見方をしていたら面白くないじゃない。ホラ、この辺から見たら花火はもっとキレイになるよ」
納得していると彼は指をさして私に知らせていた。でも、その方向は空じゃなくてさっきの人混み。
私と彼の瞳には空に打ちあがる花火が映っているみたいに人々の色が集まってカラフル彩られている。
「こんなの見たことがなかった。花火も、人も綺麗なんだね」
「悪くないでしょ」
ついこの景色に見とれながら良い時間を過ごす。キライだったはずのものが綺麗なのは素敵なことだ。
こう思わせてくれた彼にお礼を言おう。だけどまだ今はこの風景を眺めていたい。
別に友人の言う恋が始まったわけじゃないと思うけど今のこの時間はとてもかけがえのないものでいつまでも続いてと願う。
「新たなる眼にすらなれたような気になるよね」
隣にはこんな話を静かに聞いてくれる人が居てもしかしたら願いがこんな風に叶うのか。
おわり
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